[付録] ニュースと感想 (2)

[ 2001.9.22 〜 10.11 ]   


  《 ※ これ以前の分は、 8月20日 〜 9月21日  のページで 》
  《 ※ 現在のページは、 9月22日 〜 10月11日  のページ 》
  《 ※ これ以後の分は、 10月12日 〜 11月03日  のページで 》






● ニュースと感想  (9月22日)

 朝日新聞朝刊 2001-09-22 経済面に「雇用対策」という記事。(インタビュー)
 またピンぼけ。だいたい、こういうピンぼけな話を掲載するのは、そもそも、「何を質問するか」を考えていないからだ。ただ漠然と「失業者を減らすにはどうすればいいか?」というふうに考えているだけだから、こういうピンぼけの記事となる。朝日の記者には、「数量的思考」をお勧めしたい。経済というものは数量で考えるものなのだ。
 では、「数量的」に考えると、どうなるか? 今の失業率は5%以上。潜在的失業率も考えると、10%以上。ま、ざっと見て、500万人程度の雇用増が必要である。
 だから、まず、そのことを質問するべきだったのだ。「雇用を短期間で 500万人程度増やすにはどうすればいいですか?」と。そうすれば、今回の記事の「解決案」が見当はずれだと言うことは、一目瞭然だ。
 片方は「構造改革」。数万人の雇用増と十数万人の解雇をもたらすだろう。差し引きして、マイナス。
 片方は「長期的な雇用増」。短期的な効果はゼロ。
 つまり、どちらも回答としては「無意味」である。こんな記事はゴミと同じだから、掲載するべきではなかった。むしろ、正しい記事を掲載するべきだったのだ。

 では、「雇用を短期間で 500万人程度増やすには?」
 第1に、それは可能か? 可能である。アメリカでは第二次大戦の勃発と同時に膨大な軍需を発生させることで 1000万人規模の雇用増をもたらした。これは一時的な効果ではなかった。戦争終了後、軍需がなくなっても、民需に交替する形で、好況が持続した。要するに、何らかの原因でいったん不況を脱すれば、あとはその状態が持続する。
 第2に、軍需などを用いなくとも、民需を大規模に振興すれば、やはり同程度の雇用増は可能である。つまり、「総需要拡大」。現在の日本では、これによるのが本質的だし、これ以外に方法はない。( 民需拡大の方法は? → 第3章「中和政策」 ) (なお、昔の日本は、軍需を増大させた。この点は、真似する必要はない。)

( ※ ついでに言えば、長期的には、「ワークシェアリング」もある。これもやはり、数百万人規模の雇用増が可能だ。ただし、欧州の例を見ても、実現して普及するまでには十年ぐらいかかる。将来の不況回避には役立つが、当面の景気対策にはならない。)


● ニュースと感想  (9月22日b)

 「不況は、劣悪企業を退出させるので、有益だ」
 という説がある。有名な説だ。あなたも信じていませんか? しかし、この説は正しくない。
 「劣悪企業を退出させる」とは、どういうことか? ぬるま湯的で競争の少ない市場に、激しい競争をもたらすことで、「優勝劣敗」にすることだ。劣悪な企業は退出させられるが、優秀な企業は生き残って多くの利益を得る。そして産業全体の効率が高まる。
 こういうことは、もちろん、好ましい。上記の主張者も、そのことを意図しているのだろう。
 しかし、不況というのは、そういう「優勝劣敗」の状況ではないのだ。利益率を見ればわかるとおり、あらゆる企業が劣悪になってしまう。そして、劣悪がどんどんひどくなって、どうしても耐えきれなくなった企業から、順々に脱落する。鉄棒にぶら下がった生徒が次々と脱落するように。最終的には、不況がどんどんひどくなったすえ、あらゆる企業が脱落してしまう。(大恐慌)── ここでは、もちろん、産業全体の効率が高まることはない。かえって、産業全体の効率はいちじるしく下がる。
 結局、上記の主張者は、話を完全に勘違いしているのだ。
 たとえて言おう。生徒に勉強させた。しかし、遊んでばかりで、ちっとも勉強しない。そこで賢者は、「テストをする」と発表した。苛酷な競争の導入である。生徒たちは目の色を変えて勉強した。優劣の差は開いたが、それでも全員の成績が急激に向上した。さて。これを見た愚者は、別のことをした。生徒の衣服を脱がせて、寒気のなかに立たせた。ここでも苛烈な競争が起こった。まず体力の最も劣る生徒が肺炎で死亡した。次に2番目に劣る生徒が肺炎で死亡した。ここで愚者は主張した。「劣悪な生徒を退出させたのだから、平均点は上昇したはずだ」と。しかし、残りの生徒も全員が風邪を引いてしまったので、平均点は急激に低下していた。退出者が出たのは、競争が激しくなったからではなく、全員が劣化していたからなのだ。
 ── このことはぴったりそのまま当てはまる。今やあらゆる企業は風邪を引いている。肺炎で死亡寸前の企業もいる。全体の水準はいちじるしく下がっている。 なのに、「劣悪な企業を退出させたから、産業全体の効率は向上したはずだ」と主張する人がいる。本当に効率は向上したか? 政府の法人税収入は増大したか? まさか。彼には事実が見えないのである。何ら数値的な検証もせず、ただ自分の夢想と信念に自己陶酔しているだけなのだ。

 もう少し理論分析してみよう。[ 生産性との関連で ]
 不況は、表面的には、需要の縮小である。つまり、供給の余剰である。ここでは働くべき人や設備が働いていない。生産が 20% 減れば、人員も設備も 20% が遊休する。従来通りの人員と設備であれば、効率は 20% 低下する。
 つまり、不況とは、産業効率の大幅な低下のことである。そこでは膨大な無駄が発生する。企業の所得は大幅に減少して、突然ゼロになる(倒産する)。国民の所得も大幅に減少して、突然ゼロになる(失業する)。だから、「不況にはすばらしい面もある」などと唱えるのは、完全な錯誤なのだ。先の例で言えば、テストを課すべきところで、かわりに、肺炎の菌をまきちらして全員を病気にさせてしまうようなものだ。そこでは一人また一人と突然死んでいく。こういう状況を見て、「すばらしい」と唱えるのが、冒頭の説である。

( ※ こういう狂気的な説は、珍しいか? いや、世間にひろく出回っている。新聞社が主張することもあるし、エコノミストが主張することもある。特に、小泉だ。彼の「構造改革」は、この説におおよそ従っている。昔の ジュンちゃん もいる。さて、あなたはどうですか? )

    《 次項に続く 》


● ニュースと感想  (9月23日)

 政府が「不良債権処理」を推進する方針を出した。マスコミも歓迎しているようだ。(22日の朝刊各紙)
 しかし、これらは誤解である。「不良債権処理」をしても、不良債権は減らない。なぜなら、それによって、景気がどんどん悪化するからだ。また、そもそも、不良債権処理というのは、何ら解決策になっていない。赤字企業の赤字を、他の企業が肩代わりするだけだからだ。赤字そのものを減らすわけではない。

 不良債権処理に関して、「非効率な企業は倒産させた方がいい」という意見がある。これが間違いなのは、前日(9月22日b )に記したとおり。劣悪なものから順々に死なせても意味はない。全体の効率を改善させることが大事なのだ。全員を病気から健康に戻すことが大事なのだ。それでもまだ健康にならないものがあれば退出させるべきだ。つまり、景気回復しても赤字な企業は倒産させるべきだ。しかし、病原菌をばらまいた状態で、弱者から順々に死なせても、そんなことは何の意味もないのだ。

 「不良債権処理をすれば、銀行が新規事業に融資する」という説もある。これも間違いだ。どんどん不況が深刻化するさなかで、新規事業に融資するような銀行はない。もしあれば放漫経営に近い。たとえば、初期のソニーやホンダのような新興企業が登場したとする。ここに融資するべきか? するべきではない。どんなに前途有望な新興企業でも、不況が急速に深刻化するさなかでは、倒産のリスクが非常に大きいからだ。だから、いま、銀行がなすべきことは、あらゆる融資を縮小することだ。 (なお、ハイリスクの会社に金を出すのは、銀行の仕事ではなくて、投資家の仕事である。) ── とにかく、不況のさなかでは、融資をすればするほど、倒産先が増えて、不良債権が増えていく。
 上記の説の主張者は、話を根本的に間違えている。今は、銀行が融資しないから不況なのではない。不況だから銀行は融資しないのだ。そもそも、総需要が縮小していくときは、新規事業が成立しにくいのだ。
 では、どうするべきか? 正解は、新規事業が成立するようにすることだ。つまり、総需要を拡大することだ。( → 「中和政策」) 総需要拡大という方針が出れば、銀行は新規事業にどんどん融資をするようになるだろう。話の順序を間違えてはいけない。

 ……以上について、わかりやすく、たとえ話を示そう。
 マラソン大会(市場)を開くことにした。しかし、参加者を募っても、応募者(参入企業)が少ない。そこで、対策を出した。
  ・ 参加手続きの簡素化 (規制緩和)
  ・ 参加者に出場料を出す (融資)
 こう対策したことで、「新たな参加者がたくさん出る」と主催者は自信満々だった。しかし、新たな参加者は少なかった。なぜか? 天候が最悪だったからだ。氷雨で、気温は零度。体はびしょびしょに濡れ、冷たくなり、寒風にさらされる。肺炎になる可能性が強い。「参加者のうち、劣悪な者が1割〜2割ほど死ぬ」という予想である。主催者も「劣悪な者から順に死ぬのは当然。そうすれば全体の平均タイムが上がる」という主義である。……かくて新たな参加者は、一人も現れなかった。既定の参加者は、棄権すると課徴金を課されるので、やむなく参加したが、予想通り、劣悪な者から順に死んでいった。
 参加する予定だった者は、胸をなでおろした。「悪天候のときに参加しないでよかった」と。彼らは参加するのを、天候(景気)が回復するまで、2〜3年ほど待つことにした。
 ただし、主催者だけは、怒り狂った。「なんで参加しないんだ。おかげで大会がメチャクチャだ」と。彼は怒り狂って、たてがみを逆立てた。自分の誤りを認めるかわりに、すべてを天候のせいにした。

 【 参考 】 数値分析
 話をジョークだと思われては困るので、数値分析を加えておこう。 (特に読まなくてもよい。面倒なので。)
 今、デフレだとする。20社に1社が倒産する。倒産の危険率は5%だ。ゆえに銀行は融資に際して、金利を5%上乗せする必要がある。通常金利が2%なら、5%を上乗せして7%だ。物価下落率が3%なら、実質金利はさらに3%上乗せされて 10%となる。かくも高い金利を払う必要がある。しかし、新規参入企業にとって、10%の利益率など、夢のまた夢だ。(たいていは、最初の数年間は、赤字。) ゆえに、新規参入した企業の大半は、上乗せ金利を払えなくなって、倒産することになる。
 だから、まともな経営者なら、たとえ新規参入するとしても、景気が回復したあとにするだろう。通常の景気のときなら、実質金利は2%程度で済む。インフレ目標政策が実行されているときなら、当初はマイナス2%の実質金利だ。そういう時期を選ぶはずだ。
 結局、デフレ(悪天候)のさなかで参入するような企業があるとしても、その企業は、時期を窺うこともできないわけで、経営判断能力がゼロだということになる。こんなボンクラ企業など、倒産が当然だ。
 というわけで、不良債権処理など、いくらやったところで、融資を受けて新規参入する企業など、ありえないか、あったとしても倒産する。 (既存企業でも、業務拡大については、話は同様。)
 ── さて。ここまで読んで、あなたはどう思っただろうか? 「そんな馬鹿な。銀行は融資を増やすはずだ」と思っただろうか? もしそうなら、あなたの経済知識はゼロである。嘘だと思うなら、銀行に聞いてみるがいい。上に述べた話は、異端的意見ではなくて、銀行の融資部の常識である。融資部は融資の際に、上のように判断する。だから、デフレのときには、新規参入企業には融資しない。それが原則だ。そして、実際、銀行はそのように行動している。銀行は理性的だからだ。なのに、「銀行は融資をしないのでけしからん」とプンプン怒るとしたら、それは、自分の経済知識がゼロであることを証明するだけだ。  《 → 9月24日b を参照 》
( ※ 新聞報道はそれを裏付けている。朝日新聞 2001-09-23 朝刊経済面によると、ジャスダックの株価下落率は東証を上回るという。つまり、中小の新興企業は、新規上場できる最優秀の企業でさえ、平均的な在来型企業よりも業績が悪い。たとえて言えば、最優秀の企業であるソニーでさえ、起業したころに景気がデフレだったなら、倒産しただろう、ということだ。今のようなデフレが続いていると、第二のソニーとなるような優秀な新興企業は、成功するどころか、倒産しやすい。日本経済への損失である。── それが小泉の言う構造改革だ。彼は狙っていることと正反対のことをやっているわけだ。)
( ※ なお、例外的に、デフレのときに成立する企業がある。初期投資の少ない企業だ。たとえば、電話1本で開業する人材派遣業など。……しかし、である。初期投資が少なければ、融資の必要もないのだ。というわけで、融資を緩和したとしても、しょせん効果はないわけだ。── 「いっぱい貸してあげるよ。どうぞどうぞ」 「いらないんだってば!」 )

 《 追記 》
 上では、「倒産(貸倒れ)の危険率は5%」と想定した。さて、実際には、どのくらいか? もっと少ないと思うかもしれないが、実は、もっと多い。15%である。( 出典 : 週刊朝日10月5日号[ 2001-09-25 発売]の「倒産確率 〜」という記事。)


● ニュースと感想  (9月24日)

 景気はどんどん悪化する。なのに、小泉は自信満々のようだ。「構造改革」は、効果が出るのは何年も先のことで、当面は何の役にも立たない。なのに、自信過剰で、猪突猛進する。( 22日に「改革工程表」)
 こういう人物は前例はないか? と思ったら、あった。田中角栄である。「列島改造論」が正しいと信じて、猪突猛進した。その結果は、戦後最大のインフレだった。(狂乱物価。)
 小泉は、方向が逆だが、まったく同様だ。「構造改革」が正しいと信じて、猪突猛進した。その結果は、戦後最大のデフレだ。
 両者の共通点を考えよう。「列島改造論」も、「構造改革」も、状況をわきまえれば、正しい政策となっただろう。ただし、状況をわきまえていないのである。「列島改造論」は、(当時)デフレであれば、正しい政策だった。「構造改革」と「財政緊縮」は、(現在)インフレであれば、正しい政策だ。しかしそれらは、状況を理解しない政策なのである。なのに、状況を見ずに、「自分は正しい」と信じて、二人とも猪突猛進した。かくて二人とも日本経済を破壊した。
 田中角栄は、自己の失敗を認めて、いさぎよく退陣した。さて、小泉はそれだけの責任感があるだろうか?

 ついでだが、この二人と違って、状況をわきまえた政治家の例もある。高橋是清である。
 当時、井上準之助は、不況のさなかで、小泉流の改革をめざした。産業の効率化を図って、劣悪な企業をどんどん退出させた。その結果、日本を不況のどん底に導いた。次に登場した高橋是清は、総需要を拡大する方針を取った。その結果、日本を不況から救った。── あれから何十年もたったのに、今の日本は、当時の日本(高橋是清)よりもかえって愚かになっている。だから、ひとこと言おう。「先人に学べ」と。
( → 9月22日 「第2に」 )


● ニュースと感想  (9月24日b)

 朝日新聞朝刊 2001-09-24 経済面の記事。大手銀行の資金担当者の話。
「融資部門から資金を調達してくれ、という要求がまったくない」
 ということだ。つまり、融資先がない。── 私が 9月23日 に記述したこと(特に 「数値分析 」)を、裏付けているわけだ。こういう事実情報を出した点、朝日の記事もためになることがある。

 ところが、である。情報を出すだけにしておけばいいものを、何を血迷ったか、記者が見当違いな( or 正反対の)解説を加える。「融資先がないから」ではなく、「不良債権のせいだ」というふうに。引用すれば:
「金融が目詰まりを起こしているのは、………銀行が不良債権を抱え………ているからだ」
「金融の目詰まりの原因になっている銀行の不良債権を早く処理すべきだ」
 話が全然矛盾しているじゃないの! いいですか。金融が目詰まりしているんじゃない。融資先がないのだ。水道管で言えば、管の途中で目詰まりしているのではなく、蛇口の先で受け取るべき人がいないのだ。── まったく、自分の取材した話( = 「融資先がないのが原因」)を、自分で理解できていない。どうなっているの? (ちゃんと 9月23日 の「数値分析 」の箇所を理解してもらいたいものだ。)
( ※ ついでに言えば、「インフレ目標」について、やたらとデタラメ情報を流すのも、やめてもらいたいものだ。 → 「インフレ目標・簡単解説 」のページ)

( ※ 今回の朝日の記事の見出しは、「金融 目詰まり / 日銀 手詰まり」だ。しかし詰まっていないものもある。朝日のダジャレだ。まったく、詰まらない。下らない。朝日の見出しは、下手なダジャレばかりで、うそ寒くなる。)
( ※ ついでに言えば、「手詰まり」なんてことはない。正しい処方は、クルーグマン教授が示している。……だけど、朝日は、クルーグマン教授の説を、いっぺんも紹介しないんですよねえ。どこかが詰まっているんじゃないの? 水道管じゃなくて、頭のあたりが。)
( ※ おまけとして、読売との比較を述べよう。読売も決して満点ではない。しかし、本日の社説は「構造改革の効果を検証せよ」で、私の意見 [ 9月22日 ] の受け売りをしたみたいで、正しい。経済面の特集は、個人消費の詳細分析に関する指摘。どちらも、有益である。評点は、「優」か「良」となる。朝日の方は、「不合格 ・要追試」である。まったく、ひどい差。優等生と劣等生。別に、私は、読売ファンじゃないし、「あらゆるマスコミが嫌い」という方針だが、二大新聞でこれほどの差が付くと、嘆かわしくなる。朝日はひたすら自滅していくようだ。経営陣に提案したい。朝日の経済部の記者は、リストラして、全員解雇した方がいい。「専門知識の欠如」という点が、どうにも問題だ。最低限、経済学の知識がある人を採用するべきだ。だいたい、「自分は正しい」と思って、勉強する意欲の全然ない記者など、有害無益だ。朝日のためを思えばこそ、そう勧告する。)


● ニュースと感想  (9月25日)

 株価がどんどん下がっている。そこで株価回復策として、「個人株主を増やせ」「そのために各種税制で優遇せよ」という案がある。理由は、「米国は個人株主が多いが、日本は個人株主が少ないから」ということだ。
 しかし、税制で優遇しても、株価が上がるはずはない。デフレスパイラルのさなかでは、企業業績も悪化するし、企業業績の反映としての株価も下がる。株価がどんどん下がっていくときに、わざわざ買う人はいないだろう。税制の問題ではないのだ。

 さて、それはそれとして、別の問題がある。「米国は個人株主が多いが、日本は個人株主が少ないから」ということだ。これは、理屈としては成立しない。そのことを説明しよう。
 日本で個人株主が少ないのは、なぜか? 1株あたりの利益が少ないからだ。つまり、株価が理論水準( PER などによる)を大幅に上回っていたからだ。なぜそんなふうに高値になっていたかと言えば、企業がおたがいに株式持ち合いで高値に釣り上げていたからだ。そして、本来の値段以上の高値がついたものを買わないのは、当然のことだ。……こういう事情を無視して、日米比較するのは、意味がない。
 株価は適正水準を大幅に上回っていた。こういう事情では、個人株主が少なかったのは、当然だ。のみならず、好ましくもある。なぜか? 異常な高値だった株は、今や、株式持ち合いの解消につれて、適正価格まで下がった。このとき、もし個人株主が多かったら、国民の多くが莫大な損失を負っていただろう。あちこちで破産した人が現れて自殺者が出ていたことだろう。
 個人株主が少なかった(個人資産のうちで株式投資が占める割合が小さかった)のは、実に幸いだった。「個人株主を増やせ」という声は、かつてもあったが、それが実現していたら、今ごろ、破産して自殺した人の死体が、日本中にあふれていたことだろう。
( ※ だから、あなたがもし日本人を何千人も殺したければ、飛行機でビルに突っ込む必要はない。「個人株主を増やせ」と唱えればいいのだ。日銀は「反・インフレ目標政策」を取っている。つまり、「物価の安定を優先して、景気の安定を犠牲にする」という政策を取っている。だからいつか、デフレは必然的に再来する。そのときこそ、日本中に自殺者の死体があふれるだろう。)
( ※ 「そんなことはないだろう」と楽観している人は甘い。マイカル倒産や公定歩合引き下げのとき、その当日だけは株が上がったが、2日後にはその効果は霧のごとく消えてしまった。なのに、どこかの新聞社や日銀などは、こういう無意味な政策ばかりを「効果的だ」「これで株が上がる」と主張している。日本がいかにデタラメな理屈で経済運営されているか、よくわかるだろう。) [ cf. 9月15日,9月16日]

 《 データ 》
 持ち合い株式のデータは、9月25日の読売新聞朝刊・経済面に詳しく出ている。ニッセイ基礎研究所の調査。「1987年 → 2000年」で、相互持ち合い株式比率は、 「 18% → 10%」。相互的でないものも含めた安定保有株式比率は、「 46% → 33%」。時期的には、1994年頃から、急激に低下している。
 なお、金融機関の場合、2004年から、株式持ち合いに制限がかかる。
 一般的に、企業の保有する株式で、問題にならないのは、連結決算の対象となるような子会社株(など)。
( ※ 余談ふうに言えば、株式持ち合いの解消につれて、個人投資家の比率は大幅にアップしたはずだ。「個人投資家の比率を上げよ」と主張する人は、税制改革なんかより、「株式持ち合いを解消せよ」と唱えればいいのだ。それで株価はさらに下がるだろうが、しかし、そうなっても、健全化への過程であり、かえって好ましい。こちらが本質的だ。)


● ニュースと感想  (9月26日)

 「物価下落には、2種類ある。良い物価下落と、悪い物価下落と」
 という説がある。
 つまり、コスト低減のおかげで価格低下するのは「良い物価下落」であり、過当競争で原価割れの出血販売するのは「悪い物価下落」である、という説である。
 しかし、本当にそうか? 直感的にはそうだとしても、厳密に経済効果を考えてもそうだろうか? ── 答えは「ノー」である。
 第1に、原価割れによる物価下落だ。これは、消費者にとっては好ましいが、生産者にとっては好ましくない。つまり利害が相反する。一方にとっては「良い」が、他方にとっては「悪い」。……では、経済全体にとってはどうか? 企業が倒産するので、「悪い」と言えそうだ。 (ただし、エセ・エコノミストは別のことを言うだろう。「劣悪な企業が退出されるのは好ましい。倒産が増えるので、これは良い。失業者のことなんか、知ったこっちゃない」と。)
 第2に、生産性の向上(コスト低減)による物価下落だ。これが問題だ。これは「良い」と思われやすい。しかし、本当にそうか? 実例を見よう。パソコン産業だ。近年、技術革新により、生産性の向上が大幅に起こった。では、その結果は? コストの大幅な低減であり、価格の大幅な低下であり、売上げの大幅な低下であり、余剰人員の大幅な発生である。消費者は価格の大幅低下というメリットを享受したが、一方で、各企業は利益の大幅減少や赤字化に悩んだ。ゲートウェーのように事業撤退したところもある。もちろん、失業者も大量に発生した。(パソコン産業各社の数万人規模のリストラ)
 このように、生産性の向上による物価下落は、消費者にとっては得だが、生産者にとっては(やや)損である。この点では、原価割れによる物価下落と、事情は同じか似ている。
 では、解決策は? 小泉なら、「構造改革で」と言うだろう。「パソコン産業が生産性の向上で人員が余ったなら、その分、他の産業で吸収すればいい」と。なるほど、原理的には、そうである。しかしながら、それは成立しない。なぜなら、既存の産業は、すでにそれだけで充足しており、新たな受け入れの余裕はないからだ。(仮に、新規企業が参入したら、その分、既存企業がシェアを失う。需要は同じだからだ。業界全体では、売上げも労働者数も、一定である。パイは限られている。)
 ところが、である。過去の日本経済は、そのような「構造転換」を、実際になしえた。成立しないはずのことが、成立した。なぜか? 景気拡大があったからだ。たとえば、自動車産業や電器産業で生産性の向上によって人員が余っても、生産性の向上しない他の産業で、新規企業 ・新規労働者を受け入れることができた。……このとき、先端産業では価格下落が起こり、生産性の向上しない他の産業では価格上昇が起こり、国全体では、微弱な物価上昇(≒ 総需要増加)となった。こういう状況で、景気は拡大し、「構造転換」がなされた。 (ここでは「全産業での物価は下落していなかった」という点に注意。先端産業では価格が下がったが、全産業では物価が上がった。)
 しかし、今は、デフレである。全産業での物価が下落している。景気は縮小している。パソコン産業で余剰人員が発生したとなると、その失業者を、生産性の向上しない(≒ 余剰人員を発生させない)他の産業で受け入れるべきだろう。しかし、流通業や外食産業などは軒並み、大幅な業績低下に悩んでいる。これらの産業では、失業者を受け入れるどころか、自分たちが失業しはじめている。
 以上をまとめて言えば、こうだ。生産性の向上による物価下落は、消費者にとっては好ましいが、国全体にとっては好ましいとは言えない。生産性の向上にともなって、余剰人員が失業者となるが、その失業者を他の産業で吸収するためには、景気が拡大している(国民総生産が増加している = 総需要が増加している)必要がある。通常、それは、微弱な物価上昇(≒ 総需要増加 )の状態である。つまり、たとえ生産性の向上が理由であっても、物価下落は好ましいものではなく、微弱な物価上昇の方が好ましいのだ。
( ※ 全産業での物価が下落しているようでは、生産性の向上に需要の増加が追いつかないので、生産性の向上で生じた余剰労働力を吸収しきれない。つまり、失業が増加する。つまり、不況になる。)
( ※ この件については、近日中に、もっと大がかりな理論で説明する。)
  ( 【 後日記 】 「需要統御理論」   のこと。)

 「構造改革」との関連も述べておこう。
 小泉は「構造改革」を進めようとする。しかし、そのためには、経済が縮小しつつあるようでは駄目で、経済が拡大している必要があるのだ。生産性の向上に比べて需要の増加が下回っているようでは駄目で、生産性の向上に比べて需要の増加が同じか上回っている必要がある。
 小泉は「景気対策」と称して、構造改革をどんどん進める。そうやって生産性の向上をいっそう進めれば、需給のギャップがいっそう拡大して、かえって景気は後退していくのである。「構造改革によって景気回復がなされる」ということは、実際にはありえないのだ。
 むしろ、話は逆だ。「景気回復によって構造改革がなされる」のである。なぜなら景気の回復にともなって、余剰な失業者を他の産業で受け入れることができるようになるからだ。
 だから、小泉の「構造改革路線」は、まさしく、構造改革を阻害しているわけだ。構造改革を進めるためには、景気拡大策を採る必要があり、小泉流の構造改革路線はむしろ新規産業の成立を阻害して有害になるのである。必要なのは、景気拡大、つまり、微弱な物価上昇のある状態なのである。


● ニュースと感想  (9月26日b)

 朝日新聞 2001-09-26 朝刊・経済面に、また困った記事。 (インタビュー)
 不良債権処理についての問題。RCCに税金をつぎ込むか、銀行に公的資金をつぎ込むか、という両論を示している。
 とはいえ、どっちにしても、効果はゼロなんですけどねえ。 ( → 9月24日b ) しかも、そのために、数兆円規模の税金を投入するわけだ。つまり、「無駄をする仕方は、右と左のどちらがお好み?」という選択。まったく、下らない選択を示すものだ。「どっちも駄目」というのが正解なのだが。
 では、賢明な人はどうする? 「1円も税金を投入しない」という方法を採る。つまり、「今すぐ景気拡大の実現」という方法である。 ( → 中和政策
 なお、この方法なら、不良債権は、あえて不良債権処理をしなくても、急激に減少する。なぜなら、景気拡大により、企業が急激に業績を向上させて、自力で解決するからだ。 ( → 9月23日 )  そもそも、不良債権は、「処理すること」が大切なのではなく、「減らす」ことが大切なのだ。

 読売も同日で、同趣旨の記事。シンポジウムで、出席者が各人あれこれと(上記と同様の)意見を出した、ということだ。── こちらは、新聞社の見解や判断は入っていないので、その分、朝日よりはマシだ。間違っているのは、読売ではなくて、外部の識者。

 なお、ひとこと。
 「不良債権処理は大事だ。劣悪な企業はさっさと倒産させて、効率的な企業に再生した方がいい。『そごう』のように」という意見がある。
 なるほど、そごうなら、西武という優秀な助っ人が現れた。しかし、優秀な助っ人など、そうあちこちにはいないのだ。そごうの場合は、例外的だ。普通は、長崎屋のようになる。倒産させて、1年以上も、ほったらかし。いまだに処置が決まらない。死体をほったらかしているだけだ。これが、「企業再生」の実態だ。
 ついでに言えば、自動車のマツダは、フォードの社長になっても、ちっとも業績が改善しない。あれほど鳴り物入りで登場した外資系の保険会社も、「通販」というニッチ市場でこぢんまりと健闘しているだけで、日本の生保とまともに対抗できるには至っていない。「経営を一新して企業再生」なんて考えている人が多いようだが、そんなことはただの幻である。今のエコノミストというのは、たいてい、こういう幻を信じて自説をまくしたてている。新興宗教の信者のようなものにすぎない。事実を認識できないのだ。 ( だいたい、不況のさなかでは、誰が経営しても、うまく行かないのが当然なのだ。)

 それにしても、「不良債権処理で景気回復」なんていう嘘八百を並べ立てる人々が多いのは、まったく困りものだ。長崎屋やマイカルの倒産で、どのくらい景気が回復したか? ちゃんと調べてみるがいい。概算すれば、……1兆円規模の債権踏み倒し(自分の赤字を他人になすりつけること)。連鎖倒産の発生。数万人の失業者発生。……どう考えても、莫大なマイナス効果ばかりだ。なのに、「これはすばらしい景気回復効果をもつ」とか、「これで銀行は融資をするようになる」とか、「消費者が支出を増やす」とか、「一般企業が業務を拡大する」と主張するなんて、あまりにもメチャクチャな話だ。論理というよりは、妄想か狂気である。
 なお、経営が厳しくなった企業としては、ダイエー、三菱自動車、松下・東芝・日立・NECなどのIT産業、などがある。これらもマイカルやゲートウェイに続けて、みんなつぶしてしまえば、日本は景気回復するのですかね。私にはどうしても、妄想か狂気としか思えませんがね。 ( → 9月22日b


● ニュースと感想  (9月27日)

 読売新聞・朝刊 2001-09-27 によると、東京三菱銀行のグループが数百億円の赤字決算。
 業界でダントツの最優秀の銀行がこうだから、他の銀行は推して知るべし。
 要するに、銀行自体が不良債権と化してきている(!)。だから、「不良債権を処理せよ」という理屈が正しいのなら、「銀行をすべて倒産させてしまえ」となる。「不良債権を処理せよ。ただし銀行だけは別扱いで、公的資金で救済しよう」なんていうのは、論理がおかしい。「銀行も含めてすべての企業を、不良債権処理で倒産させる」か、「すべての赤字企業に公的資金を投入して、すべての赤字企業を救済する」かの、どちらかを主張するべきだ。銀行だけを特別扱いするなんて、とんでもない。 だいたい、銀行員ってのは、特別高級をもらっているのだ。何で彼らのために税金を投入するのか。貧者による金持ちの救済である。馬鹿げている。

 読売の社説は、正しく指摘している。「不良債権処理はともかく、抜本的に景気対策をするのが大事だ」と。
 そうです。銀行への公的資金の投入なんかより、こちらの方がずっと利口なんですけどね。中和政策なら、コストは1円もかからないのだから。しかも効果は莫大。病気の日本を完全に立ち直らせることができる。 (ただし、日銀が「物価安定第一」と言って、景気回復を邪魔しなければ。ここが問題。  cf. 「インフレ目標」)

 朝日の方は、別件で、またとんちんかんな記事(インタビュー)。「ベンチャー支援をするにはどうすればいいか」という話題で、無駄な施策ばかりをだらだらと書いている。勉強不足。
 ベンチャー支援の正しい解決策は、何か? 補助金か? 規制緩和か? 銀行融資の拡大か? ── いや、そんなことは、いくらやっても、効果は少ない。正しい解決策は、別にある。 ( → 9月23日


● ニュースと感想  (9月27日b)

 日本銀行 で、政策委員会・金融政策決定会合議事要旨 ( 8月13、14日開催分) ( 9月25日) の公開。
 「インフレ・ターゲッティング」についての言及がある。「インフレ目標について検討するべきだ」と提案した委員がいたという。しかし提案は無視され、検討も討議もなされなかった。
 そのあとで、採決。物価上昇率は「0%以上」という最低レベルでの(大幅に譲歩しての)「インフレ目標」を、実質的に導入することについて。結果は「1対8」で否決。
 ── それにしても、討議さえしないというのも変だし、討議なしで採否を取るというのも変だね。日銀って、何をする機関なのだろう? 

 私としては、次のことを提案したい。 [ インフレ目標をテーマとして ]
  ・ 公聴会の開催   (日銀は中立の立場)
  ・ 公開討論会の開催 (日銀は中立の立場)
  ・ 上の二つを聞いてから、委員が討議する。
  ・ 日銀の立場の、公的な表明。
    (速見講演への反論 [ → 補足 ] への説明も。)
 以上を、約1カ月以内に、やってもらいたい。それができなければ、「業務怠慢」を理由として、全員、失業してもらおう。無能な委員に退出してもらうわけだが、これもデフレの成果となるので、委員もきっと自己満足するだろう。


● ニュースと感想  (9月28日)

 小泉は「所信表明」で「不良債権処理」の方針を出した。
 しかし、前日(9月27日)に記した通り、銀行自体が非常に経営悪化しているのだ。倒産しかねないのだ。で、不良債権処理をどんどん進めたあげく、銀行を全部倒産させてしまった、となったら、どうするつもり? これは仮想的な話ではないのだ。現実味が非常に強いのだ。
 ま、公的資金注入により、あらゆる銀行を国有化してしまえば、たしかに、不良債権問題は解決する。小泉はそういうつもりなのかな? (ついでに、日本自体を不良債権にしてしまって、米国に買ってもらうつもりなのかも。)

( ※ 念のために言うと、「国有化」はジョークです。しかし「公的資金投入」を本気で言う人もいる。でもね。公的資金注入とか国有化とかいうのは、銀行自体がいやがるんです。だから実現の可能性はないんです。ま、社会主義で国有化したがるなら別だけど。)
( ※ 無理矢理実現したら? 公的資金投入で、銀行の「国有化」。RCCの利用で、赤字企業の「国有化」。── そのあと、不況が深刻化したら? 日本は恐慌のすえに、全企業を国有化するのかも。小泉はそれを狙っているのかな?)


● ニュースと感想  (9月28日b)

 朝日新聞・朝刊・経済面 2001-09-27 の報道によると、米国は景気回復策として、減税を実施する方向らしい。額は 1000億ドル、つまり、12兆円。
 「所得税の減税」というのは、「中和政策」の変形だが、とにかく、正しい政策である。これを金融緩和と組み合わせるのが、景気回復の正しい処方箋である。(あとで増税するはずだ。クリントンは実際、増税した。これもレーガノミックスの尻ぬぐいの形での「中和政策」である。) とにかく、アメリカは、減税と増税を交互に行なって、正しい経済学を用いている。
 一方、「米百俵」「構造改革」と唱える田舎国家は、経済学ではなくて、別のもの(精神論?)で、景気を回復したがっているようだ。


● ニュースと感想  (9月28日c)

 「米百俵」がよく話題になる。ではこれを教訓として、どう受け止めるべきか? 次の2種類の受け止め方がある。
 (1) 小泉家の場合。
 ……「将来のためには、今は我慢することが大事だ」というふうに、道徳的精神論として理解した。
 その結果は?
 今現在の支出を切りつめることにした。教育費用も切りつめる。「義務教育だけでいい」と子弟に言い聞かせて、中学卒業後は米作をさせた。かくて毎年米をたくさん作って、当主は満足した。「これぞ米百俵」と。
 (2) 大泉家の場合。
 ……「長期的な観点での投資が大事だ」というふうに、経済学的に理解した。
 その結果は?
 今現在は金がないので、借金することにした。ただし「米百俵」の教訓で、無駄遣いはせず、子弟の教育費用に回した。子弟は進学して、エリートとなった。かくて、借金を返済した上で、毎年莫大な収入を得て、当主も本人も満足した。「長期的計画で借金して良かった」と。

 さて、どちらが好ましいだろうか?
 現実の小泉は、「財政緊縮」路線である。国債30兆円という枠をはめる。不況は継続する。いつまでたっても貧乏暮らし。昔の借金も返せないまま。それでも、「借金は増やしていないぞ、えへん」と威張る。
 一方、大泉(?)案は、「財政拡大」路線である。国債の発行で、一時的に借金する。しかし、数年後にはすべて返済して、さらにその何倍もの収入を得る。「借金したけど、何倍もの収入を得ました。投資効果です」というわけだ。そして昔の借金もすっかり完済。かくて、大泉のいる国では、みんなハッピー。


● ニュースと感想  (9月29日)

 朝日新聞・朝刊・経済面 2001-09-29 に、またおかしな記事。(インタビュー)
 「円安で景気回復できる」という意見である。理由は、「円安なら、輸出業にプラスだし、インフレにもなる」というもの。
 よくある意見だが、いかにも奇妙である。そこで、よく考えてみよう。
 「輸出業にプラスだ」。これはつまり、「輸入業にマイナスだ」ということ。純粋な輸出産業には得だろうが、さまざまな輸入資源をつかう多くの産業にとっては損。差し引きすれば若干のプラス、というだけだろう。このことはあまり大きな意味はない。
 「インフレになる」。さあ、そうかな? たしかに、物価上昇は起こる。しかしそれは通常のインフレと同じなのだろうか? よく考えてみよう。── かつて、レーガンが「強いドル」で米国を繁栄させたのは、ドルを実際の価値以上に引き上げたからだ。強いドルで、他国の商品を安く買い上げた。実際以上の金持ちとしてふるまった。そうして一時的な繁栄と享楽を得た。かつて円高になったときも、同様だ。バブル時の初期には、「1ドル=85円」なんていう円高になった。日本は実際以上の強い価値をもつ円で、一時的な繁栄と享楽を得た。では、円安にすれば? その反対となる。実際以上の貧乏としてふるまう。あくせく働くが、金をもらえない。物の値段が上がるが、収入は増えない。これは、通常のインフレとは異なる。通常のインフレなら、物価も収入も同時に増えるが、円安では、物価は上がっても、収入はあまり増えないのだ。それというのも、本質的には、円安は、円の価値が小さくなった状態だからだ。 (円のお札をもらうが、そのお札は価値がなくて、従来のようには物を買えない。)
 かつて、ドル高の米国や、円高の日本では、物価低下にともなって、実質所得が増えたのと同じことになったので、旺盛な内需が起こった。円安では、逆になる。実質所得が減ったのと同じになり、内需は縮小する。たしかに外需は増えるが、内需は減るのだ。差し引きすれば? たぶん、内需縮小の方が、効果は大きいだろう。なぜなら、ドル高の米国や、円高の日本では、外需の縮小よりも内需の拡大の方が、効果は大きかったからだ。その話を逆にすればよい。
 「物価を上げればインフレだからデフレを脱出できる」という考え方は、あまりにも単純で粗雑である。物価を上げるだけなら、消費税を大幅増税すればよい。それなら、物価は上がる。ただし、国民の所得は奪われるので、内需が減って、景気は急速に冷える。「円安に」という政策は、単純に言えば、そういう効果がある。もう少し正確に言えば、「消費税を上げて、その分、企業へ輸出補助金を与える」というのと同じである。その結果は? 企業に与えた輸出補助金は、企業には残らず、「製品値下げ」という形で、外国に利益が流出する。日本人の富を外国にプレゼントするわけだ。あくせくと働くことはできるが、そうして働いた利益を外国にプレゼントする。つまり、奴隷となるようなものだ。
 「通貨価値の向上(通貨の切り上げ)」をすれば、その国にとって利益となるものだ。貧民国家だった日本は、円が上がるにつれて、急速に生活水準を向上させていった。かつては安い賃金で繊維製品を作るだけだったが、円が上がると、ハイテク製品を輸出して、外国から農産物やブランド品を安価に買えるようになった。「円安」は、その逆をめざす道だ。なるほど、円安によって、あくせく働くこととなり、その意味では、景気は回復する。しかし、「働けど働けど なおわが暮らし楽にならざり」となってしまう。物価は上がって、賃金はろくに上がらないからだ。内需は縮小したままで、ひたすら外国に奉仕するために低賃金で働く。奴隷のごとく。
 とにかく、それが「円安」の効果だ。( ただし失業者は減る。だから政府は「成功した」と自慢するかもね。失業者を減らして、奴隷を増やすだけなんだけど。) ( 換言すれば、「効率向上」をめざす「構造改革」とは正反対に、「円安」は「効率低下」をめざす道である。)

   【 追記 】
   円安に関しては、 11月07日 でも再論している。
   また、翌日分(↓)にもある。

 ── どうも、朝日は、ここのところ、ひどい提案ばかりを載せている。批判もピンぼけの批判ばかりなので、「ひどい提案」だということがわからない。困ったものだ。
 朝日に提案する。どうせなら、米国のように「大規模減税」でも紹介すればどうか? なぜか、これについては記事で取り上げないが。
 減税の財源はあるか? ある。28日の夕刊によれば、失業者は 100万人以上。失業保険を年間 200万円とすれば、失業保険の総額は2兆円。3年間で6兆円。この6兆円をそっくり減税に回せばよい。明らかに6兆円分の景気回復効果が出る。それで景気が回復して、失業者がなくなるのなら、ちっとも損ではない。逆に、構造改革と不良債権処理を実行して、失業者を増やしてから、失業保険でカバーしても、景気回復効果はプラスどころかマイナス。6兆円は無駄に消えてしまう。 
( ※ 減税の是非については、第3章「中和政策」を参照。)
( ※ 米国の減税は12兆円。人口がほぼ半分の日本としては、6兆円でほぼ同規模の減税となる。 → 9月28日b


● ニュースと感想  (9月30日)

 円安の話 [前日分] の続き。
 円安を実際に実施すると、どうなるか? その類似例が、歴史上に見出される。それは、オイルショック(石油危機)だ。
 このとき、輸入品の価格が上がり、国内の物価は上がった。この点から見れば、「円安」と同様である。で、インフレになったか? いや。スタグフレーションになった。国民の富が外国に流出した結果、国民は貧しくなり、「不況下の物価上昇」という現象が起こった。
 無理な円安もまた同様である。「輸入品の価格が上がり、国内の物価は上がり、国民の富が外国に流出する。」── 事情は同様であるから、結果もほぼ同様であろう。輸出産業がいくらか潤うかどうか、という程度の差でしかない。少なくとも、単純なインフレと違って、スタグフレーションふうの不況効果が生じるのは、まず間違いない。
( ※ つまり、その意味で「デフレからの脱出」はできるが、本質的な解決にはなっていないわけだ。ひとつの不幸から、別の不幸に移るだけだ。)
( ※ 「富の流出」については、前日分の記述を参照。「Jカーブ効果」という経済 用語も参照。)
( ※ 11月07日の「余談」 の「冗談半分の方法」というのが、スタグフレーションに相当する。)


● ニュースと感想  (9月30日b)

 戦争の話は、したくないんですけどね。これは逆に、人命救助の話。
 読売新聞・朝刊・社会面 2001-09-29 に、おもしろい記事。「タリバンの兵士は、1日にパン1枚だけ。兵士は強制徴用されたので、たいてい脱走したがっている」という話。読売新聞・朝刊・国際面 2001-09-30 では、すでに前線の一部で、脱走兵が出たり、降伏を打診してきているという。
 これは、うまく利用できる。タリバンやビンラディンと戦う必要はない。兵士にみんな脱走してもらえばいいのだ。そうすれば話は全部丸く収まる。アフガン民衆は恐怖政治から開放されて喜ぶ。タリバンが消滅するのでアメリカ政府も喜ぶ。報復テロが起こらないのでアメリカ市民も喜ぶ。日本も戦争に加担しないで済むので喜ぶ。
 では、方法は? 今、タリバン支配地域では、ろくに食料もないし、兵士も飢えている。そこで、タリバン支配から脱した地域に、食料援助するとよい。「タリバン支配から脱すれば食料は食い放題だ」となれば、タリバンの兵士はみんな投降したがるし、戦意は喪失する。かくて、戦わずして、タリバンは消滅する。(あとは国連平和維持軍にでも駐留してもらう。)
 私がこれをお勧めするのは、金を、人助けのために使うことができるからだ。湾岸戦争のときは、130億ドル以上を出した。これは人殺しのために使った金である。今度も放置すれば、アメリカに命じられて、人殺しのための金を払わされる。つまり、世界貿易センターの市民を殺すかわりに、アフガンの市民を殺すために、金を払うわけだ。 (これであなたもビンラディン並みのテロリストになれます。)
 どうですか? 人殺しよりは、人助けの方がいいと思うんですけどね。それともやっぱり、人殺しのために金を払った方がいいと思いますか? 「剣か、パンか」── みなさん、よく考えてね。

( ※ この方法は、人命を救えるし、コストもかからない。ただし、時間がかかる。そこで面子にこだわるアメリカとしては、今すぐ武力で解決したがっているわけだ。人命や金より、ブッシュの面子が大事。)
( ※ それにしても、タリバン支配地域に食料を投下するのは、逆効果。)


● ニュースと感想  (9月30日c)

 デフレスパイラルが深刻化しているようだ。
 「テロショックで下がった株価も一息ついたし、このあとは回復するかも」
 と期待している人も多いようだ。しかし残念ながら、事実はそれとは逆の方向と取りつつあるようだ。
 朝日新聞・朝刊・政治面 2001-09-29 によると、富士通などのIT産業は不況の深刻化にともなって、さらにリストラ(首切り)を増やす方向だという。(このまえも大量にリストラしたばかりなのに。) さらに、銀行も軒並み赤字決算で、どんどん経営は悪化していくばかりだという。同日の読売も、似た情報。NECなどの電器会社が赤字で、ソニーも利益率がほぼゼロに近くなるという。株価下落で、銀行の株式含み損も半年間で、 3千億円から 4兆7千億円に急増したという。
 朝日新聞・朝刊 2001-09-30 では、企業 200社へのアンケートで、「景気は後退の一途」。つまり、どんどん悪くなるばかり。
 明らかにデフレスパイラルに乗りつつある。日本は恐慌に向かいつつある。ところが能天気に、この事実を喜んでいる人がいる。小泉だ。
「ダーウィンの進化論に従おう。環境の変化に対応できない者は、劣者だから、社会から退場するべきだ。優勝劣敗。それで進化が進む。これこそ構造改革」 ( → 9月22日b , 27日「所信表明」 )
IT産業でリストラが進んでいるのは、構造改革が進んでいる証拠。銀行が赤字なのは、不良債権処理が進んでいる証拠。だから、これでいい」
 ふうん。では、小泉の構造改革路線がどんどん進めば、どうなる? 企業はみんな赤字で倒産。銀行もみんな赤字で倒産。労働者はみんな失業。日本は完全崩壊。 ……なるほど、これが「構造の改革」か。そうか、そういうことなのか。


● ニュースと感想  (10月01日)

 クルーグマンの NY Times への寄稿(2001.7.08.)の和訳が公開されている。
   A Leap in the Dark  By PAUL KRUGMAN
 これを見ると、この人、私とそっくりなことを言っていますね。いや、私が彼にそっくりなのかな。(別に、真似したわけじゃないんですけどね。影響は受けていますが。でも、私はヒゲは生やしていないんですよね。)

 クルーグマンと私の違いは? 彼は人柄が良く、私みたいにイヤミでないので、最初に遠慮深く、次のように言う。
  “ ある意味では、日本の経営者や官僚についてもっと否定的なことを書ければよいのに、と思う。”
 そして最後に、次のように言う。
  “ 小泉氏は成功するだろうか? 感触は良くない。「改革か、さもなくば破綻か!」というスローガンは、危険なことに、「改革による破綻へ!」となるだろう。”
 私より言葉がきついですねえ。  (^^);
 ( ※ 「A Leap in the Dark 」とは? 逐語訳では、「暗闇に跳び込むこと」。成句では、「向こう見ず。暴挙」( → 英和辞典)。意味的には、「目をつぶって、エイヤっと跳び込むこと」。つまりは、「無知な人間が、先もわからないまま、深い谷底に跳び込むこと」。 暗黒の奈落の底にあえて跳び込む 日本の自殺行為を皮肉っているわけ。……相当、言葉きついですねえ。)(「 黄泉の川 日本跳び込む 水の音」 ポシャッ。)

 《 関連 》
 クルーグマン日本語訳 のサイトに、次のページがある。
  「日本の金融再生ナントカってダメすぎ。
  ……公的資金注入に関する話。
  「オイルショックを考え直す
  ……ちょっと風変わりな話。だけど、興味深い。
 ( ※ 要旨は : 「需要または供給の硬直した市場では、均衡点が複数現れやすいので、突発的な変化が起こることがある。オイルショックしかり。アジア通貨危機しかり。」という話。数学的に言えば、「カタストロフィ」の発生。

 《 関連 》
 クルーグマン情報 (黒木)


● ニュースと感想  (10月01日b)

 朝日新聞・朝刊・政治面 2001-10-01 に、小泉内閣への世論調査の結果。 (数字は % )

  内閣を支持する   はい 70  ノー 14
  首相の政治姿勢   良い 33  悪い  3
  行政・財政の改革  良い 29  悪い  7
  景気・雇用対策   良い  9  悪い 34


 この数字を小泉は噛みしめた方がよい。小泉の経済方針は、森総理並みに、低支持率なのだ。森総理は、さっさと辞任しただけ、まだマシだった。小泉は圧倒的に不支持の経済方針を改めようとない。 (「構造改革」≒「傲慢不遜」≒「厚顔イケイケ」? )


● ニュースと感想  (10月02日)

 2001-10-01 夕刊各紙に、日銀の短観が報道されている。「3期続けて、悪化の一途」である。
 ただ、その報道は別として、面白いことに気づく。朝日・読売の夕刊には、1984年以降の「業況判断指数」がグラフ化されている。その内容は:
 ・ 90年がピーク(山頂)となる。
 ・     91年は一挙に落ち込む。
 ・       92〜93年は底を這いずる。
 ・    94年から回復過程をたどる。
 ・  96年末にいったん「ややプラス」まで上昇する。
 ・     97年後半に一挙に下落する。
 ・       98年が底。
 ・    99年は急激に回復する。
 ・  00年にいったん「ややプラス」まで上昇する。
 ・     01年にまた下落過程を取る。
 ここで気づくことは、二つある。
 第一に、不況から脱出するチャンスは二度あった、ということだ。94年〜97年前半と、00年である。このとき、「インフレ目標」を実行していれば、「物価上昇過程で量的緩和」を実行することにより、一挙に不況を脱出できていたはずだ。
 第二に、景気を急激に悪化させる状況が二度あった、ということだ。97年後半と、01年である。何だったろう? 97年後半は、11月の「山一証券・自主廃業」だろう。これが人々の心理に与えた影響は、実に大きかった。これを契機として、消費は急激に縮小していった。 01年は? 失業率が急激に悪化していったころだが、これも「不良債権処理」や「倒産」がどんどん進んでいったせいだろう。
 ……では、以上の教訓は? 
 第一に、景気回復の芽が出ることは、今後またいつかあるだろう、ということだ。しかしそのとき、「インフレ目標」を採用していなければ、日銀がまた物価上昇を拒否して景気回復の芽をつぶすので、不況に逆戻りしてしまう。以前と同様だ。いじわるじいさんのせいで、お先真っ暗。
 第二に、不良債権はまだまだたくさん残っているし、銀行自体が不良債権と化してきている。だから、景気を回復させないまま、どんどん不良債権処理を進めれば、どんどん失業率が悪化して、どんどん景気は落ち込むばかりだ、ということだ。つまり、景気回復の芽すら出ない。
 ……結局、景気回復の芽は出ないし、たとえ芽が出ても、日銀がその芽をつぶす。ゆえに、日本は破滅するしかない。となると、日本が救われる可能性はただひとつ、小泉が新たな改革をすることだ。どんな? 「構造改革」ではなく、「自己改革」だ。「自分は正しい」という唯我独尊を捨てることだ。それ以外に、日本が救われる道はない。


● ニュースと感想  (10月02日b)

 クルーグマンが「量的緩和」を否定していることについて、直接、本人の言葉を引用しておいた。
  → 「インフレ目標」 簡単解説
   ( 最後の 《 参考 》 の箇所。)


● ニュースと感想  (10月03日)

 朝日新聞・朝刊 2001-10-03 に、記事が二つ。1面では、自民党の基本方針で、「株式取得優遇税制を実施する」とのこと。経済面では、「米国の個人消費が急速に失速。世帯の半数は株式に投資しているので、株価下落による逆資産効果が出た」とのこと。(読売では、米国景気悪化の度合いがひどいとも報道している。)
 この二つは関連づけると、面白い。個人株主が増えると、景気に対して、振幅効果が大きくなるわけだ。いったん不況に傾けば、その不況の度合いを急速に強める効果があるわけだ。 (「景気の不安定構造が増す」と言い換えてもよい。 → 第3章・前
 現在の日本で、不況がこの程度で留まっているのは、個人株主が少なかったからだ。個人株主が増えれば、将来、ふたたびデフレが襲ったとき、今よりもはるかにひどい状況となるだろう。大恐慌となるかもしれない。昔の世界大恐慌のときも、個人株主がたくさん自殺した。その再来を、政府は将来の日本のために、準備しているわけだ。 ( → 9月25日


● ニュースと感想  (10月03日b)

 朝日新聞・朝刊・経済面 2001-10-03 で、「IT外資どっと撤退」という記事。
 かつて有望とされた新規事業が、次々と撤退していくわけだ。つまり、「構造改革」路線が間違っていて、私の指摘が正しかったことになる。
 とにかく、「ITと e-Japan で景気回復」という「構造改革」路線の誤りは、ここで白日の下にさらされたわけだ。 ( それでもいまだに、「ITや新規産業で構造改革して景気回復」なんて、寝惚けたことを言う人が多い。)

( ※ 内閣府から、「IT」や「e-Japan」という語で検索すると、ほとんど夢のような薔薇色の言葉が並んでいる。経済財政諮問会議の答申など。)
( ※ 私の指摘は、 → 第2章「IT化」 や、9月23日 。もしこれらの新規事業に融資していれば、銀行は不良債権をさらに増していただろう。)


● ニュースと感想  (10月04日)

 公的資金投入にかわる、別の案がある。「ウルトラC」ともいうべき案が。( cf. 現状については、朝日新聞・朝刊・経済面 2001-10-03 を参照。)
 公的資金投入とは、何か? 銀行が不良債権処理をすると、自己資本が不足して、つぶれてしまうので、自己資本の不足を補うために、公的資金で銀行の株を買い増す、ということだ。
 しかし、である。政府が株を買わなくても、民間が株を買えばよいのだ。そして、ここが肝心なのだが、その株を買う費用を、当の銀行が融資すればよい。 ( ウルトラCですね。)
 たとえば、A銀行が資本不足になったとする。そこで、株式(優先株など)を発行して、ダミー会社に買ってもらう。買う資金は、A銀行が融資する。結局、ダミー会社は、1円も使わずに、名義だけで株主になる。融資の利率と、株式の配当とは、同じになるように調整する。
 このダミー会社は、それ自身の株を発行して、政府に買ってもらう(政府保有会社になる)。将来、銀行株式が上がれば、ダミー会社が利益を得て、政府に利益を分配する。将来、銀行株式が下がれば、ダミー会社は倒産する。しかし、株主たる政府は、ダミー会社の損失をすべてかぶる必要はなく、ダミー会社の株式の分(雀の涙のような小額)だけを払えば済む。つまり、危険率はゼロで、大儲けの可能性だけがある。
 では、危険を負担するのは、誰か? つまり、ダミー会社に赤字が生じて倒産したら、その赤字を負担するのは、誰か? もちろん、ダミー会社に融資した銀行である。融資が回収できなくなる。つまり、銀行が経営悪化した分を、銀行が自分で尻ぬぐいするわけだ。銀行の赤字を、他人(政府)が負担することにはならない。
 かくて、八方めでたしめでたし、となる。
( ※ この処理の本質は何か? BIS規制とか、資本不足とかは、銀行の経営の実態とは別のことで、単なる帳簿上の問題である。単なる帳簿上の問題を、単なる帳簿上の処理で解決する、ということだ。── 単なる帳簿上の問題に対して、政府が公的資金を投入して現物の金を投じる、というのは、馬鹿げた話だ。そういう馬鹿げたことをやめさせよう、という本質的な解決法が、この案だ。)
( ※ 上の方法は、名前を付けた方がいいだろう。「形式処理」と呼ぶことにする。「公的資金投入のかわりに、形式処理を」というのが私の提唱だ。)
( ※ メリットは何か? 「国債を何兆円も発行する(現物の金を増やす)ことが、不要である」 「よそから金を出してやらないことで、銀行のモラルハザードを防ぐ」……金銭的な損得はあまりないが、手続き上のメリットがある。)
( ※ なお、ダミー会社は、A銀行の株価の下落への対策として、運転資金が必要だ。この運転資金も、A銀行が融資するが、そっくりそのまま、A銀行に預金する。)
( ※ なお、さらに銀行の経営が悪化して、銀行が自分の尻ぬぐいをできなくなって倒産せざるをえなくなったら、そこでやっと、国の出番となる。しかしこれは、「不良債権処理のための公的資金投入」とは異なる。金融システム保護の政策にすぎない。)
( ※ 「話はわかったが、そんな粉飾まがいの方法は、けしからん」と怒る人も出てきそうだ。しかし、よく考えてみてほしい。本質的には、「自社の金で自社の株を買う」というわけで、「自社株買い」と同じことだ。「自社株買い」が認められるなら、この方法だって認められていいはずだ。だいたい、「政府に何兆円もの莫大な金を出してもらう」という考え方の方が、よっぽどけしからんと思いますけどね。)
( 【 注記 】 引用や紹介は、引用元を明示している限り、自由です。── 他の箇所も同様。)


● ニュースと感想  (10月04日b)

 朝日新聞・朝刊 2001-10-04 (1面・経済面)で、米国景気についての記事。「景気刺激のため、金融政策のほか、財政刺激策も」という報道。 ( → 9月28日b
 同じく、経済面の小さなベタ記事。日銀の委員が、インフレ目標政策導入に対し、否定的意見。理由は、景気刺激するための金融政策手段が限られている」とのこと。
 ── 以上二つの記事を見ての、感想は。……呆れますよね。誰だって、そうでしょ? 「景気刺激策には、金融政策と財政刺激策も」と米国は論議する。何とか景気回復しようと努力する。日銀は、「金融政策がない」とだけ述べて、財政刺激策をこの世に存在しないかのごとく扱う。「だから何もしない。景気回復は諦めるしかないね」というわけだ。敗北主義 or 怠慢主義 である。
 私の結論は、こうだ。日本で景気回復させる一番いい方法は、日銀を倒産させること。日銀委員をリストラして、全員やめてもらえばよい。かわりに米国の人を招こう! ( → 9月27日b


● ニュースと感想  (10月05日)

 2001-10-04 の朝日新聞・経済面および読売新聞・社説によると、「金利引き下げの結果、米国は、金利と物価上昇率の差がほぼゼロになった。だから 、この先の経済政策のゆとりが少なくなった」ということだ。
 しかし、これは正しくない。(金利も物価上昇率も 2.5% で、) 実質金利がゼロになったが、この先、さらに金利を引き下げることができる。そうして「マイナスの実質金利」を実現できるのだ。 (クルーグマン説の通り。)
 これはまさしく「インフレ目標」を実施したことになる。日銀がぐずぐずしているうちに、米国の方が先に「インフレ目標」を(実質的に)実施することになりそうだ。
 米国の場合、今すぐさらに金利を引き下げれば、「マイナスの実質金利」となる。それによって物価上昇率はさらに上がるかもしれない。となると、インフレ気味となるが、それは需要の拡大を意味するので、明らかに景気後退から脱出できる。一方、金利の引き下げをためらっていると、景気後退が進んで、物価上昇率も下がり、日本のようにデフレになるかもしれない。いったんデフレになれば、「流動性の罠」に陥り、もはや金利の引き下げは出遅れで無効となる。(「マイナスの実質金利」も不可能。) こうなると、米国は日本の二の舞となり、世界同時恐慌となる。
 米国の経済運営が注目される。「インフレ目標」の実施で、景気を回復させるか。それとも、ぐずぐずして、日本の二の舞となるか。……どっちにしても、興味深い。「天国か、地獄か」である。これは見ものだ。


● ニュースと感想  (10月05日b)

 かねて「近日公開予定」と予告していた原稿が、ほぼ完成しました。この週末には、公開できる予定です。あとちょっと、お待ち下さい。

( ※ クルーグマンは、小泉内閣の「サプライサイド」の経済運営について、「その計画は暗闇に飛び込むようなものである」と、先行きの不透明さを皮肉った。私の今回の原稿では、サプライサイドでやると、「不透明」ないし「無効果」ではなくて、「かえって悪くなるばかり」と示している。つまり、「小泉流の景気回復策を進めれば進めるほど、景気はどんどん悪化する」と理論的に証明するわけだ。これはジョークではない。現実を見よ。まさしくその通りになっている! では、解決策は?  …… クルーグマンも驚くような画期的な内容を含むので、乞う、ご期待。)

 《 関連 》
 表紙ページの最後 に、「このページを読んで、お金が儲かる方法 」を、赤字で追記しておいた。暇なら、読んでみてください。  (^^);


● ニュースと感想  (10月06日)

 構造改革がなぜ駄目なのか、わからない人が多いようだ。そこで、わかりやすく、簡単に説明する。
 構造改革の狙っていることは、産業効率の向上である。「それがなぜ悪いのか?」と不思議に思うだろう。それは次のような理由による。
 産業効率の向上とは、供給ないし生産性の向上である。これが基本である。(「サプライサイドの経済学」と言い換えてもよい。)
 さて、今、供給が不足しているのなら(つまりインフレなら)、供給の向上は、需給のアンバランスを解消する。物価は高騰をやめ、経済は安定する。だから、この場合は、「構造改革」は良い。
 一方、今、需要が不足しているのなら(つまりデフレなら)、供給の向上は、需給のアンバランスをいっそう拡大する。物価は異常に下落し、経済は不安定になる。企業はどんどん倒産し、失業者はどんどん増える。( cf. 現状を見よ。) だから、この場合は、「構造改革」は悪い。
 ── そういうことだ。「構造改革」の良し悪しは、状況次第なのだ。状況次第で価値は変わるのだ。状況をわきまえなければ逆効果となる。だから今の状況が、インフレなのか、デフレなのか、それを知って対応しなくてはならない。
 では、デフレの現在、どうすればいいか? 答えは簡単だ。「構造改革」を単独でやるのでなく、「景気回復策」と組み合わせればよい。そうして状況を変えればよい。デフレが解消すれば、「構造改革」のデメリットは消えて、メリットだけが残る。
 現実には、小泉は「構造改革で景気回復」と主張する(これ自体は妄想である)。つまり、「構造改革」をそれ単独でやろうとしており、「景気回復策」を取らないでいる。かくて、デメリットばかりが強く出る。つまり、「構造改革で景気悪化」となる。
 結局、何事も使いようなのだ。たとえて言えば、「構造改革」は食卓のナイフのようなもので、フォークがない。フォークとナイフが両方ともあれば便利だ。しかし、フォークなしで、ナイフだけで食べようとすれば、口を切るだけだ。 (手づかみの方がまだマシだ。)
 だから、「フォークなしのままナイフだけなのはやめた方がいい」と言っているわけであって、「ナイフを捨てよ」と言っているわけではない。「構造改革は駄目だ」というのは、そういう意味だ。小泉は今、構造改革を急速に進めようとしているが、そんなことをすれば、ナイフの切れ味を増すようなもので、口が血だらけになるだろう。
( → 「9月26日」の最後のあたり。)
( → 「第2章 景気回復」 )
( 生産性の向上との関連については → 11月28日


● ニュースと感想  (10月07日)

 読売新聞・夕刊 2001-10-06 によると、米国では 600億ドルの減税を提案したので、株価が急反発したということだ。(減税が効果があることがこれでもわかる。 → 9月28日b
 では、これで米国景気は回復の方向に向かうだろうか? 私の見方は悲観的である。

 読売の同じ面のコラム「エコノ eye」には、興味深い情報が記してある。米国では消費性向が高く、貯蓄は少ない、と信じられてきたが、実は、意外な側面があった。たしかに貯蓄率低下は著しいのだが、金融資産は激増しているのだ。なぜか? 貯蓄のかわりに、株に金を回していたからだ。
 91年から99年の間、家計の可処分所得のうち、貯蓄に向かった額は 2兆7000億ドル。純資産の増加額は 17兆ドル。残高は 90年の 2.5倍にもなる。額では一人あたり 10万ドル( 1200万円!)。
 この間、ダウ平均は 3.4倍に上昇している。株価の上昇が純資産の増大をもたらしたと言えるが、やたらと株を買うから株が上がったとも言える。こういう資産の増大の結果、個人は安心して消費を拡大していったわけだ。

 さて、これをどう見るか? これは明らかにバブル期の日本と同じだ。株価がどんどん上がっていくので、人々はどんどん株を買い、それがまた株価を上げた。しかし、このスパイラルも、結局は破裂した。あとは、ご存じの通り、奈落へ落ちる一途。
 米国を見ても、「 10年間で 3.4倍 」というのは、経済の実態を越えた過剰な上昇である。物価上昇率を考慮しても、「 10年間で 2倍強 」ぐらいが本来の値だろう。となると、米国の株のバブルは、いずれ破裂して、3〜4割ぐらい下落してもおかしくない。

 では、どうするべきか? 
 まず、個人なら、なるべく株を早く売ることをお勧めする。バブルの破裂した直後に株を売っていれば、傷は浅く済んだ。ぐずぐずしているうちに、株価は急速に下がった。最高で4万円寸前までになっていたが、今では1万円程度。4分の1だ。米国では、これほど下落はしないだろうが、勢いが余れば、5割ぐらい下落することもあり得る。だから、傷が深くならないうちに、手仕舞った方がいいだろう。
 次に、政府はどうするべきか? 個人が株式市場から離れるのを防ぐように、大幅なインフレ的な政策を実行した方がいいだろう。5%程度の高めの物価上昇率を目標として設定し、大幅な金融緩和を実行するといい。高めの物価上昇率を設定すれば、個人の金も株式に戻ってくる。……インフレ的な政策には、批判が来るだろうが、短い期間であれば、実害は少ない。5%の物価上昇率を半年間続けても、2.5%にしかならない。それで大恐慌の危険を逃れられるなら、安いものだ。ケチな根性をしていると、日本の二の舞になる。つまり、物価上昇によるわずかな損を恐れたあげく、不況に陥って最悪の大損をするわけだ。(この物価上昇は、一種の保険だと思えばよい。危険の高まったときには、最悪の事態を回避するために、多少のコストをかけるのはやむを得ない。とはいっても、保険料をケチりたがるような人には、何を言っても無駄だが。)

 《 追記 》
 経済学的には、どう対処すべきか?
 米国のバブルは、日本のバブルほど大きくない。この点では、対処しやすい。それでもいつかは、破裂するはずだ。とはいえ、最善の経済政策を採れば、バブルを急激には破裂させず、徐々に縮小することができるはずだ。つまり、「なだらかなバブル縮小」だ。── このためには、景気の拡大はなるべく慎むべきだし、また、景気の急速な悪化も防がなくてはならない。「景気の急速な悪化に対して、常に後手に回った」という 1991年ごろの日銀の経済運営は、最悪のものだった。


● ニュースと感想  (10月07日b)

  論考1 「需要統御理論」  を公開。
 需要(消費)を自由にコントロールするマクロ的な方法を示す。
 クルーグマン理論の拡張。


● ニュースと感想  (10月08日)

 「需要統御理論」 簡単解説  を公開。
 初心者向けの、簡単な解説。


● ニュースと感想  (10月09日)

 「需要統御理論」 簡単解説  を更新。 (一部加筆)


● ニュースと感想  (10月09日b)

 朝日新聞・朝刊・総合面 2001-10-08 の記事によると、「国内総生産(GDP)の統計・速報値の発表時期を、政府は早めることにした。四半期ごとの発表に、2カ月余りかかっていたのを、約1カ月早める。できれば今年度中に実施」とのこと。
 統計データの速報化をするわけだ。そこそこ好ましい。でも、もうちょっと、何とかならないものですかねえ。手計算の昔ならともかく、コンピュータがあるのに。
 私の考えでは、最低でも、1カ月ごとに速報するべきだと思う。そして、原則的には、生データを1日ごとに出して公表するべきだ。生データから集計値への編集も、リレーショナルデータベースで、リアルタイムで更新するべきだ。こういうのをIT化というのだ。
( ※ なお、生データのうち、家計の消費調査は、家計簿ソフトを利用するとよい。わざわざ家計簿ソフトを買った人なら、必ず家計簿をつけているから、そのデータをオンラインでいただけばよい。オンライン[常時接続]にする費用は国が払う。かくて、協力者は何もしないで協力費をもらえし、国は低コストでデータをリアルタイムで入手できる。これぞIT化だ。……なお、今の家計調査は、手書き帳面なので、対象が老齢家庭に片寄っている。家計簿ソフトなら、若い家庭が大幅に入る。つまり、統計精度の向上。かくて、一石二鳥。)


● ニュースと感想  (10月10日)

 戦争が始まった。では、「戦争で景気回復」は、これで実現するだろうか? 考えてみよう。
 財政支出は 200億ドル。この金が必要となる。この金を市場から吸い上げれば、金利が上がる。お札を刷って使えば、金利は上がらないが、物価が上がる。── どちらにするか? 
 第一に、金利上昇を選んだ場合は、民需は減るが、官需が増える。差し引きして、トントンのように見えるが、もともと民需は減った状態だから、官需の増える効果の方が大きい。かくて、全体では、景気はいくらか良くなる。
 第二に、物価上昇を選んだ場合は、純粋に景気が良くなる。インフレ状態となり、物価が上がるので、民衆は不満になるが、十分な減税をしてもらえば、あまり不満は出ないだろう。 とはいえ、しょせんは 200億ドルしか軍事支出をしないので、その効果はその分だけのものでしかない。( 600億ドル もある減税の効果よりも、ずっと小さい。)
 ── 結局、どっちにしても、景気は少し良くなるだけだ。これはなぜかと言えば、 200億ドルという支出が全然足りないからだ。 ( なぜたったの 200億ドル かと言えば、タリバンが弱すぎるので、米軍の兵器はたいして消耗しないからだ。第二次大戦のころは、恐ろしいほど大量の兵器生産が行なわれたのだが。)
 というわけで、戦争の規模が小さすぎるので、戦争の経済的効果もまた小さすぎる。「戦争で景気回復」は、今回はちょっと無理だろう。喜ぶべきか、悲しむべきか。……
( ※ 一方、「消費者の消費意欲の縮小」は、かなり大きく出る。こちらの方が効果が大きいので、差し引きして、景気は悪くなりそうだ。結局、平和の方が経済にとっては得なのだ。喜ぶべきか、悲しむべきか。……)


● ニュースと感想  (10月10日b)

 「需要統御理論」 簡単解説  を一部更新。
 図 の下にある、「生産性の向上の理由について」という文章を書き換えた。「景気回復」と「生産性の向上」との関係を、わかりやすく厳密に書き直した。


● ニュースと感想  (10月11日)

 アフガンで、米軍の食料投下。その経済学的な考察をしてみよう。
 これは、効果があるか? アフガンの国民は、「アメリカのものなんか疑わしいので食べない。イスラムの流儀にのっとって処理したかもわからないしね」とのこと。 (朝日新聞・朝刊・総合面 2001-10-10 )
 写真を見ると、「人道的な食糧」だが、絵を見ると、いかにもアメリカ風味のようで、まずそう。日本語で言えば「非常食・乾パン」の印象。読売によると、たしかに乾パンやビスケットなどだ。
 文字も全部英語。「アメリカ嫌い」の国に、こんなもの出したって、「押しつけやがって」と感じられるだけ。思いやりのかけらもない。
 私の提案は? 
 (1) 味はアフガン風味または(隣国)インド風味のもの。
 (2) 飢えた国民には、甘いお菓子が最も効果的。おいしいチョコレート菓子などを何種類も用意して、「先進国ではこんなにすばらしいものを食べられるのか。戦争なんかやってられないな」と思わせるようにする。……これが大事!
 (3) アフガンの各民族の言葉(数種類)で印刷する。
 (4) イスラム教で問題のない食べ物である旨、明示する。
 (5) アラーの神を称え、「あなたたちの味方ですよ」と示す。(さもないと、キリスト教の宣伝だと思われ、逆効果。戦前の日本で言えば、天皇陛下を称えれば受け入れやすい、ということ。)

 ……以上のことを日本がやれば、「すばらしい!」と世界各国から大評価。小泉さんの株も上がるんですけどね。(東証の株は下がりっぱなしだが。少しは株価回復効果も? これが最大の景気回復策だったりして。)

 ……だけど、あとでよく考えてみると、この食糧は本当に非常食だな。つまり、長く保存したあと、賞味期限切れが迫ったものを、「どうせ捨てるなら」と思って、アフガンに捨てているのだろう。数百万の国民に対して、数万食で、量的にはほとんど無意味、とのことだ。無意味だとわかっていてもやるのは、効果を考えての援助ではなくて、単に廃物処理をしているだけなのだろう。


● ニュースと感想  (10月11日b)

 「インフレ目標」 簡単解説 を更新。新項目をいくつか追加した。 ( 印は、なし。)




   《 翌日のページへ 》







「小泉の波立ち」
   表紙ページへ戻る   

(C) Hisashi Nando. All rights reserved.
inserted by FC2 system