[付録] ニュースと感想 (6)

[ 2001. 12.11 〜 12.27.]   

  《 ※ これ以前の分は、

       8月20日 〜 9月21日
       9月22日 〜 10月11日
      10月12日 〜 11月03日
      11月04日 〜 11月27日
      11月28日 〜 12月10日
        12月11日 〜 12月27日

   のページで 》




● ニュースと感想  (12月11日)

 【 解説講座 】
  世間の経済学説は、たいていデタラメである。なぜか? 「これこれの損がある」とか、「これこれの得がある」などと主張するが、そのとき、物事の半面だけを見て、全体を見ないからだ。

 (1) 「インフレは消費者に損だ」という説
 これは、世間によくある説だ。「インフレは消費者に損だ。それは国民の金を奪う。税と同じだ。けしからん」と。
 しかし、損が発生するとしたら、その損はどこへ消えるのか? それを考えてみるがいい。全体では、どこにも金は消えていない、とわかるはずだ。
 たしかに、消費者は損をする。しかしその分、生産者は得をするのだ。そして、たいていの人間は、消費者であると同時に生産者である。人は単に金を消費するだけではない。働いて金を得て、その金を使うのだ。だから、物事の両面を見れば、損も得もしていないことになる。(実際には、インフレのときは、少し得をする。デフレのときこそ、損をする。)
 インフレとは、消費者にとっては「物価の上昇」であるが、同時に、生産者にとっては「所得の上昇」なのである。物事の半面だけを見れば、損であるように見えるが、物事の両面を見れば、損得はないとわかる。
cf.  「需要統御理論」簡単解説

 (2) 「インフレは資産価値を減らす」という説
 純然たる消費者(= 生産しない人)にとっては、インフレは損であるように見える。しかし、これもまた、物事の一部分しか見ていない。なぜなら、実際には、利子というものがあるからだ。
 インフレのとき、利子は物価上昇率よりも多くなるのが普通である。たとえば、物価上昇率が 3% で、利子が 5% となる、というふうに。このとき、物価上昇にともなって、元金の資産価値は減るが、「元金プラス利息」の総計は増えることになる。つまり、正しくは逆に「インフレは資産価値を増やす」なのだ。
 一方、不況のときには、無利子となる。こちらの方が損なのだ。物事の半面だけを見て、「インフレは怖い」などと言っていると、利子によって資産を増やすことができなくなる。
cf. 「インフレ目標」簡単解説

 (3) 「生産性を向上させれば、経済は成長する」という説
 供給の面だけを見れば、そう言える。しかし、実際には、供給を増やしても、それがすべて売れるわけではない。つまり、需要の側の制約を受ける。それが不況だ。
 不況のときには、生産性を向上させても、生産の総量は需要によって上限が定まる。これまで 50万台の生産能力があったとき、生産性を倍増して、100万台の生産ができるようになったとしても、需要が 50万台でとどまっていれば、生産は 100万台にはならず、 50万台のままである。つまり、需給のギャップが拡大するだけだ。
 このとき、生産性が向上するにともなって、人員は半分で済むことになるから、その分、失業者が発生する。つまり、生産性が向上すれば向上するほど、失業が増えて、不況は悪化する。生産性の向上が純然たるプラスであるのは、十分な需要があるときだけだ。需要が不足しているときは、所得アップというプラスと、失業増というマイナスとが、併存する。この両者をともに見るべきだ。プラスだけを見ても、事実の半面しか見ていないことになる。
(ついでに言えば、総需要が拡大していなければ、他の産業で失業者を吸収することもできない。)
cf. 11月28日

 (4) 「不良債権処理をすれば、万事うまく行く」という説
 コストを無視している。たしかに、帳簿だけを見れば、どこかから金がもたらされるので、帳簿の赤字は埋まる。しかし、それは、物事の一面を見ているだけだ。その金は、どこから来るのか? 国民全体からだ。結局、赤字が国民全体に拡散するだけだ。
 「いや、コストはかからない。誰にも迷惑をかけない」と主張する人もいるだろう。しかしそれは、「打ち出の小槌がある」と主張するようなものだ。もし本気でそう言うのなら、ぜひ、その金を、私に回してもらいたいものだ。
 たとえば、私がペーパーカンパニーを設立する。私が好き勝手にお金を使って、さんざん無駄づかいする。そのあとペーパーカンパニーを破産させる。その金は銀行の不良債権処理で埋めてもらう。そしてまたペーパーカンパニーを作り……(以下繰り返し)
 かくて私は、無限の金を浪費できることになる。しかも、上記の主張者によれば、「それでも誰にも迷惑をかけない」ことになる。たぶん、打ち出の小槌があるのだろう。
cf. 不良債権物語

 (5) 「不良債権がいっぱいあるから、銀行は融資をしない」という説
 理屈だけを見て、事実を見ない。銀行は実際にはどうしているか? 融資をしたがっているのだ。融資をしなくては、利益を得られないのだから、当然だろう。銀行は、相手が優良企業であれば、「どんどん借りてください」と、頭を下げてお願いしている。なのに、企業の方は、ちっとも借りてくれないのだ。
 では、なぜ企業が借りないか? 個人消費が縮小しているからだ。総需要が減っていて、売上げも減少しているからだ。こういうときに、投資をするはずがない。今は失業者が大量にあふれている。これは設備が遊休しているということを示す。設備が遊休しているのに、なぜあえて投資をするのか。馬鹿なエコノミストを喜ばすためか? 「作れば、必ず売れる。売れ残りなんか生じない」と主張するエコノミストを信じるからか?
 まず事実を見るべきだ。事実でなくて自分の主張ばかりにこだわるから、ただの空理空論となるのだ。銀行が融資をしないのは、銀行が貸さないからではない。そういう事実を見るべきだ。貸し手の側ばかりを見て、借り手の側を見なければ、事実を認識できない。
cf. 11月22日

 【 結語 】
 いずれも、物事の半面だけを見て、その全体を見ない。だから、たいていの経済学者は、間違いだらけになるのだ。自分の説に都合のいい面ばかりを見ていては、ダメだ。そんなことでは、いつまでたっても現実を認識できない。
( ※ 本日分の記述は、これまで述べたことの「要約」ふうである。詳しい話は、cf. の箇所を参照。)


● ニュースと感想  (12月12日)

 「インフレのときは、資産を外国に逃避させるべきだ。なぜなら、インフレになると、お金の価値が減るからだ」
 という考え方がある。
 これは正しくない。正しくないどころか、事実とは正反対である。

 (1) インフレのとき
 インフレのときには、資産が減るどころか、増える。なぜなら、利息というものがあるからだ。(この件は、前日(2) で述べたとおり。)
 普通の状態では、物価上昇率は 2.5% 程度、長期金利は 5% 程度。差し引きして、実質金利は 2.5% 程度。だから、資産は減るどころか、増える。(この増える分は、生産性の向上率 2.5% に、ほぼ相当する。)
 実際、欧米諸国では、 2.5% 程度の実質金利を得ていて、資産を増やしている。(現在の米国では、実質金利がゼロになっているが、これは「不況」という例外的な場合にあるからだ。ごく稀な事態である。)

 (2) デフレ(不況)のとき
 デフレ(不況)のときには、資産は増えることはない。それどころか、減ることがある。
 なぜ増えないかと言えば、利息がゼロ(程度)になるからだ。いくら物価上昇率がゼロで、金の価値の目減りがないからといって、利息がゼロでは、資産は少しも増えない。実際、ここ十年ほどの日本がそうだ。
 「増えなくても仕方ない」と思うかもしれない。しかし、外国では、生産性の向上分程度の実質金利を得ているのだ。本来もらえる分を失っているわけだから、実質的には金を奪われているようなものだ。「本来もらえるはずの給料を、もらえなくていい」なんて思う人はいないはずだ。

 さて、増えないどころか、減ることもある。それには、二つの場合がある。
 第1に社債の債務不履行である。マイカルやエンロンの株式は紙屑となってしまった。少し減るどころか全部蒸発してしまった。
 第2に国債の暴落である。低金利の国債は、将来、景気が回復したとき、暴落するだろう。となると、ここでは、金を失うことになる。「でも、最後まで所有していれば大丈夫。それなら損は発生しない」と言い訳をする人もいるかもしれない。しかし、その言い訳は、成立しない。最後まで所有していても、損は発生するのだ。なぜなら、ここでは、「未来において得るはずの利益を失った」ことになるからだ。それによって失った「未来の利益」は、国債の暴落した分と、同じである。結局、最後まで所有しているか否かにかかわらず、暴落によって生じた分の損失が発生する。(その損を、今まとめて払うか、あとで分割払いするか、というだけの差だ。損が消えるわけではない。)

 結論。
  ・ インフレのときは、資産を国外逃避させるべきではない。
  ・ デフレのときは、資産を国外逃避させるべきだ。
 これが結論となる。つまり、最初に示した意見とは、反対となる。
 そして、このことは、事実として確認される。最近、円相場が円安になっている。これは、円資産が国外逃避していることを示しているのだろう。いわゆる「キャピタルフライト」である。(この件については、日を改めて、詳しく説明する。)

 余談。
 「インフレでは金を盗まれる」と思う人が多いが、それは勘違いである。デフレのときこそ、生産性向上の分の金を得られないので、「デフレでは金を盗まれる」というのが正しい。実際、デフレの現在、国民はどんどん貧しくなっているはずだ。(賃上げと利子をともに失う。)
 さて、こうして盗んだ百兆円規模の金は、どこへ行ったか? 小泉が海にどんどん捨てているのだ。どの海に? わかりますか? ( 解答は、本日の最後に。)

   *  *  *  *  *  *  *  *

 【 参考 】
 国債の格付け。
 週刊朝日( 2001-12-11 発売 )によると、アルゼンチンの国債が債務不履行になる可能性があるという。償還するだけの資金がないそうだ。1国の国債が安心できるとは限らないわけだ。
 読売・朝刊・2面( 2001-12-11 )によると、日本の国債格付けが、先進国中で最低ランクになったことが、欧米の新聞でも話題になっている。(欧米は「ざまみろ」という気分? 日本をアルゼンチン並みの実力と見なしている? サッカーならともかく。……)

 [ 付記 ]
 倒産したエンロンの社債は、紙屑になる可能性が十分ある。マイカルの社債は、紙屑となった。日本の証券会社も、これらを投信に組み込んで大やけどを追ったようだ。
 プロが投資したのに、なぜ失敗したか? それは、社債の格付けというものが、全然信頼できないせいらしい。格付けというのは、企業の財務内容をまともに把握しないまま、決算報告などの帳簿だけを見て、いい加減に勘でランクづけしているだけのようだ。というわけで、エンロンやマイカルのように、「安全確実」から「投資不適格」へと、格付けが急激に変化することもあるわけだ。

 上記の問題の解答 : 不良債権処理 および 生産性の低下 ( 穴を掘って埋めるのと同じ。) [ なお、この莫大な無駄は、小泉が景気回復策を採れば、ただちに解消する。]


● ニュースと感想  (12月13日)

 日銀による外債購入についての解説記事。(読売新聞・朝刊・経済面 2001-12-12 )
 「外債購入によって、円安に導こう。そうして物価上昇や輸出振興によって、景気を回復させよう」というのが、この政策だ。
 これについて、メリット・デメリットなどを一覧表にしたりして、いろいろと解説している。部分的に不十分な点もあるが、話題の経済的なポイントを解説しようとする意図は好ましい。(政府の礼賛だけをするよりはずっとマシだ。)
 円安の本質についての言及がないのは問題だが、それ以外は、おおよそうまくまとまっている。

 さて。私の見解を述べれば、以下の通り。(日銀による外債購入について)
  1. 「円安」というのは、所得向上なしの物価上昇であるから、好ましくない。( → 円安
  2. ただし、デフレという状況では、資産が国外逃避するのは当然である。( → 前日の 12月12日 ) だから、日銀が同じことをやったとしても、別に不自然ではないし、咎めるには当たらない。
  3. 資産が過度に国外逃避すると、円安が極端に進む。こうなると、第1項の弊害が強く出るので、好ましくない。
 結論。ある程度の外債購入は不自然ではない。1ドル = 130円 になるぐらいなら、やむをえない。日本経済がどんどん弱まっているのだから、実態を反映して、円安になるのも仕方あるまい。しかし、140円 とか 150円 になるようだと、上記の第1項の弊害が強まる。また、経済力の実態以上の円安だ、とも言える。こういうのは、好ましくない。

 さて、もうちょっと本質的に考えてみよう。この「外債購入」というのは、不自然ではないとしても、なすべきか否か?
 「景気回復効果」を期待する人もいる。「外債購入により、量的緩和と円安となり、景気が回復するだろう」というわけだ。しかし、これは期待しない方がいい。
 第1に、量的緩和は、「流動性の罠」ゆえ、効果がない。
 第2に、円安は、実質所得の減少を意味するから、単純なインフレよりもずっと効果が小さい。
 また、そもそも、2兆円程度の外債購入では、影響はあまりないと思える。この程度で、景気が劇的に回復することなど、どう考えても、ありえそうにない。(数兆円規模の公共事業でも、ろくに効果がないのに、2兆円程度の外債購入など、効果はたかが知れている。)

 さて、である。仮定の話だが、もし景気が回復したら、どうなるか? ── その場合、強引な円安状態から、元に戻る。たとえば、1ドル = 120円 になる。ここで、帳尻を考えよう。140円のときに円を売って(外債を購入して)、120円のときに円を買う(外債の償還を迎える)わけだから、差し引き、 20円の損失である。いくらか利息が付いても、多大な為替差損が出てしまう。
 だから、外債を買ってもいいのは、「景気が回復しない」という前提が成立する場合のみである。もしも景気が回復したら、この投資は大失敗する。
 結局、「景気回復を狙って外債を買う」というのは、自己矛盾しているわけだ。「景気回復がなされないことを狙って外債を買う」のならば良い。円が暴落すれば、多大な為替差益を得る。しかし、「景気回復を狙って外債を買う」というのは、大損をもたらすわけで、話が矛盾しているのである。
( ※ キャピタルフライトについては、後日また述べる。)


● ニュースと感想  (12月13日b)

 【 正誤訂正 】
 「経済財政諮問会議には、マクロ経済の専門家は1人もいない」と記していたが、これは私の勘違いであった。実は、1人いる。Y教授である。前は「労働経済学」と記したが、正しくは「マクロ経済」の専門家である。
 ……この件、読者からの情報を得て、訂正します。
( ※ これにともなって、過去の記述は、修正しました。該当箇所は → 11月11日12月10日

 《 ぼやき 》
  新聞報道を鵜呑みにしたのが、間違いだったようだ。新聞なんて信じちゃいけないと、つねづね自戒しているくせにね。いや、もともと私の勘違いだったのかな。いずれにせよ、済みません。ともあれ、実際には、ご本人はマクロ経済の専門家である。
 ただ、出席していても、押されっぱなしで、全然目立たないようだ。それでもとにかく、いることはいるわけだ。(別に「壁の花」とは言わないけれど。)
( → 10月28日d《 余談 》

 《 注釈 》
 事実関係で誤りが判明した場合、私はただちに目立つ形で、正誤訂正を告知します。
 ただし、新聞はそうではないので、注意しましょう。通常、紙面の片隅に、こっそり掲載するだけです。「正誤訂正はデカデカと掲載せよ」という読者の声が掲載されたこともありますが、無視されています。
 なお、小さくとも、正誤訂正が形成されれば、まだマシです。朝日の場合、私が事実関係の誤りを指摘しても、「済みません」というお詫びのメールが来ただけで、紙面では正誤訂正が掲載されないことが何度かありました。新聞の情報というものは、信じちゃいけないんですね。

 [ 教訓 ]
 保身のコツは、次の通り。
  ・ マスコミたるもの、誤りを報道しても、認めず、知らんぷりするべし。
  ・ 首相たるもの、誤って国を破滅させても、「自分は正しい」とあくまで言い張るべし。


● ニュースと感想  (12月14日)

 読売の社説。(朝刊 2001-12-13 )
 「償還財源を明らかにした国債を発行すべし。国債 30兆円の枠外で」という主張。
 正しい主張だ。しかし、表現が不明瞭で、何とも歯がゆい。「償還財源」とは、何のことだ? もちろん、増税だ。それ以外に、うまい収入源などはない。もしあるのなら、数年後を待たず、今すぐ使うことができるからだ。
 「数年後の増税を担保として、今すぐ減税すべし」
 と、はっきり言うべきであった。つまり、中和政策 である。景気回復の方法としては、これ以外にはない。いくら考えても、これ以外の方法はない。他の方法はすべて副作用をともなうのだ。従来型公共事業にせよ、新型公共事業にせよ、ひどい副作用が発生するのだ。つまり、「多大な無駄の発生」および「受益者の偏在」である。
 そしてまた、将来的に増税をなす以上は、現時点の支出先としては、減税以外にありえない。国民にとっては、「今は減税で、将来は増税」なら受け入れ可能だが、「今は新型公共事業で、将来は増税」なんてのは噴飯ものだ。「人の金を担保に入れて、勝手に無駄づかいするな」と言いたくなる。( → 11月12日 ) もし こんなことをされたら、国民としては、金を国に泥棒されたようなものだし、将来の増税のために、せっせと貯金する必要が出てくる。これでは景気は逆に悪化してしまう。
 景気回復の方法は、ただひとつ。「今は減税で、将来は増税」である。言論人たるもの、不明瞭な表現にせず、はっきりと明示するべきだろう。
( ※ ただし私の意見を、無断引用しないでね。原則、出典を明示してください。)


● ニュースと感想  (12月14日b)

 小泉の言葉。会議での挨拶。(朝日・朝刊・政治面・首相動静欄 2001-12-13 )
 「体調が悪くなると、(体に)何がいいかってのが、一番わかるんです。やっぱりご飯ですね。」

 ふんふん。なるほど。……では、経済の体調が悪くなったときは? 何がいいのかな?
 やっぱり、経済的なご飯でしょうね。つまり、お金ですね。国民にお金を渡すこと (中和政策)。 そうすれば、国民は個人消費を増やすし、景気は急速に回復する。当たり前ですね。
 ところが、実際に小泉がやっていることは、何なのだ。自分はご飯を食べるくせに、国民にはご飯を渡さない。逆に、「米百俵」と言って、ご飯を取り上げる。そうして痩せさせたあげく、「構造改革」を無理強いする。これはつまり、「無理なトレーニング」だ。こんなことをやらされたら、日本経済は、もともと体調が悪いのに、ますます体調が悪くなる。(ほとんど瀕死である。)

 小泉への勧告。
 「ご飯」か「構造改革」か、どちらかに統一しなさい。「構造改革」を主張するなら、それを自分でも実行しなさい。
 たとえば、風邪を引いたとき、ご飯を食べたりしないで、体の構造改革に取り組みなさい。寒風のなかで裸で走り回って、「トレーニング」をしなさい。「そんなことをすれば、死んでしまう」と拒否するかもしれない。しかし、今の日本は、そういう目にさらされているのだ。あなたの言葉に従って、企業はご飯を食べさせてもらえずに、次々と死んでいく。だったら、あなたが 自分の言葉 に従ったすえに死んだとしても、それで本望でしょうが。
 「劣悪な者は退場させよ」というのが、あなたの主義だ。風邪を引いたとき、あなたは劣悪になったのだから、さっさとこの世から退場すればいいでしょ。それがあなたの主張だ。
( → 病人の運動劣悪な者を退場


● ニュースと感想  (12月15日)

 「円安にせよ。1ドル = 180円 ぐらいに」という、エコノミストの意見。(朝日新聞・朝刊・経済面 2001-12-14 )
 すごい意見。こんなことして、どうなると思います? 120円 に比べて、5割の円安ですよ。
 まずは輸入の効果。輸入物価は5割も上がる。実際には、1割ぐらいは企業が負担して、4割ぐらいを消費者が負担するだろう。で、企業は収益がますます悪化するので、倒産が続出する。(ユニクロも倒産?) また、消費者は、物価が上がっても所得が増えないので、買えるものが少なくなる。つまり、総需要は急速に縮小する。(たとえば、今まではユニクロのフリースを3枚買えたのに、今度は2枚しか買えなくなる。) 企業としては、名目売上げは同じでも、実質売上げが 3分の2 になるわけだから、その分、従業員を解雇しなくてはならなくなる。失業者は大幅に増加。
 一方で、輸出企業は、潤う。電器産業や自動車産業は、対米輸出を急増させる。しかし、とたんに、米国の保護主義が頭をもたげて、輸入制限が発動される。ダンピング課税である。鉄鋼業や自動車産業は、これまで何度も痛い目に遭ってきたやつだ。うまく行けば、50% のダンピング課徴金。悪くすれば、200% の超過課徴金(過去の例からすると、この可能性が高い。)かくて、対米輸出はほとんどゼロになる。欧州向けも、似たり寄ったりだ。だから輸出は、増えるどころか、激減する。
 結局、輸入も輸出も、大幅な損失。倒産と失業が続出。大幅な貿易赤字が発生して、円は暴落する。その結果、さらにスパイラル状に、経済体質は悪化する。日本は奈落の底へ。

 結論。
 この方法ならば、たしかに、デフレから脱出することができる。なぜか? デフレよりもっと悪い「スタグフレーション」になる からだ。不況と物価上昇の併存。(本質的には、日本から外国への富の流出。)インフレやデフレよりもひどい、最悪状態となる。
 だけどマスコミは、「これでデフレから脱出できる」と報道しているんですよね。ま、それはたしかに真実だが、自分で自分の言っていることがわかっているんですかね。「病気から脱する方法」を教えてほしいと言われて、「もっと病気を悪化させて、死なせてしまえ」と言うのと同じでしょ。そりゃ、死んでしまえば、もう病気じゃないですけどね。

 [ 付記 ]
 円安には、こういうひどいデメリットがあるのに、それを示さず、メリットばかり報道する。まったく、日本のマスコミってのは、どうなっているんだろう。偏向報道。特定意見の偏重。「真実の報道」という使命を忘れている。


● ニュースと感想  (12月15日b)

 朝日新聞批評を2件。次の (1) (2) で。

 (1) インタビュー記事
  朝日の「! どう見る小泉改革」というコラム。(朝刊・解説面。 2001-12-12〜14。3回連続。識者3人に聞く。)
 まったく、ひどい話ばかりだ。小泉について何か論じるなら、小泉と真っ向からぶつかる論客を選ぶべきだろう。なのに、(1) は第三者ふうに高みの見物。(2) は横からチョコチョコと口を出して、アラ探しするだけ。(3) は一応小泉の欠点をまともに捉えてはいるが、対策としては「どうしようもない」という逃避主義。誰一人として、まともに相手とぶつかろうとしない。獰猛(どうもう)なライオンが日本を食い殺そうとしているときに、それを身を張って守ろうとはせず、脇に身を寄せて隠れて、キーキーと声を上げているだけだ。 (かくて日本は食い殺される。経済的破局。)
 結局、この3回のコラムは、ゴミと同じだった。紙面の無駄。どうして、こういう人選をするんですかね? アンチ・小泉の人間は、朝日からパージされているんですかね? (そう言えば、読売と違って、ノーベル経済学者は、一人も登場しませんね。やっぱり言論統制?)

 (2) 記者の論説
 小泉論のコラム。「最大与党の国民が支え」というタイトルで。(朝日・朝刊・政治面 2001-12-12 )
 「小泉の支持率は 77% もある。旧来の自民党政治とは違って、国民の支持を基盤にしている。指導力がある」
 という礼賛記事である。(最後の方では、付け足しも少しあるが。)
 呆れた。これは、ゴミよりも、もっとひどい。小泉の提灯持ちだ。政府の下僕だ。のみならず、事実を歪曲している。最悪のマスコミ記事の見本。
 だいたい、マスコミの本分は、何か。政府の暴走を止めるために、必要な情報を提供することだ。なのに、朝日の記事は、それとは正反対だ。
 第1に、心がけがいけない。「政府批判」という意思が欠如している。だから、あれこれと小泉の美点を数え上げているくせに、「不況の深刻化」という最大の失政を見過ごしている。現在、国民が最大の問題としているものを、あえて見過ごすのだ。そうして小泉を礼賛するのだ。ほとんど政府のPR紙である。
 第2に、統計を操作している。「支持率が 77% 」というのは事実だ。しかしそれは、小泉というもの全般に対して、総合評価しているからだ。「かわりになる人はもっと悪いから」「鳩山があまりに馬鹿だから」というような理由で、消極的に支持している人も多いだろう。……しかし、数字をよく見るがいい。政策の個別評価では、「景気対策の政策」は、支持よりも不支持の方が、ずっと多いのだ。どの世論調査でも、そう出ている。( → 10月01日b
 こういう詳細に目をふさいで、おおざっぱに見るだけでは、「統計を歪曲した解釈」「数値の自己流の解釈」となってしまう。批判の目が曇っていれば、事実を正しく認識できなくなる。

 [ 付記 ]
 朝日はひところ、「不良債権処理を進めよ!」「インフレ目標は絶対反対!」と大々的なキャンペーンを張っていた。しかし、なぜか、最近はすっかり影をひそめたようだ。どうなっているのだろう?
 こういう間違った意見が出なくなったこと自体は好ましい。一歩前進である。しかし、黙っていればいいというものではない。急に口を閉じたのでは、読者は戸惑う。「いったい、あの声は、どこ行っちゃったの?」「変節しちゃったの?」と。
 朝日に教えておこう。マスコミとしてなすべきは、偏ったキャンペーンをして、言論操作することではない。間違ったことを主張したあとで、ほおかむりすることでもない。なるべく多様な情報を提供することだ。常に賛否両論の意見を掲載することだ。特に、政府が一方の意見ばかりを主張しているときは、それに対する批判を掲載して、意見のバランスを保つことだ。獰猛な政府の暴走に対するチェック機能をもつことだ。……なのに、朝日は、どれひとつとして実行していない。言論人として、失格である。(読売とは、雲泥の差だ。)

  【 追記 】
 朝日はこのあとまた、「インフレ目標」の記事を書いた。ただし、とんでもないデタラメの記事。12月30b日 の箇所を参照。


● ニュースと感想  (12月16日)

 減税について。
 与党が「税制改正大綱」を正式決定( 2001-12-14 )。そして、これをめぐって、新聞もいろいろと報道している。ただ、気になる点があったので、解説しておこう。

 (1) 財源
 「減税の財源がない」
 という声がある。しかし、そんなことはない。「将来の増税」という財源がある。これを使えばよい。 ( → 中和政策

 (2) 財政赤字
 「減税をやたらとやると、財政赤字がたまる」
 という主張がある。なるほど、それはそうだ。しかし、それは困るか? この点を、よく考えた方がいい。
 そもそも、財政赤字の蓄積には、2種類ある。
 ひとつは、国による支出だ。たとえば、公共事業への支出だ。この支出は、「社会的な資産になるので有益だ」という説もあるが、実は、無駄である。実際、効果が少ないための無駄もあるし(例:本四架橋)、建築後の経年劣化という損失もある。巨額の財政赤字が発生するが、この赤字は決して解消されない。
 もうひとつは、国から国民への還元だ。つまり、減税だ。この支出は、無駄ではない。金はどこにも消えない。減税は、国と国民との間の金のやりとりであって、国全体で見れば、無駄(ロス)は発生しないのだ。減税の結果、どんなに巨額の財政赤字が発生しても、その分、国民に巨額の黒字が発生したということになる。だから、少しも心配はないのである。(だからこそ、あとで増税することが可能となる。公共事業に使うのとは異なる。)
 実を言うと、減税は、無駄を発生しないどころか、利益を発生する。なぜなら、不況のときは、経済が病気になっているからだ。減税は、病気の経済を治す薬となる。この薬によって、病気だった経済は、正常になる。さまざまなマイナス( 倒産・失業・稼働率低下・不良債権・セーフティネット費用など )が消失する。
 結局、国の側の帳簿だけを見て、「減税は赤字だ」と騒ぐことはない。大事なのは帳簿ではない。実質的な損得なのだ。減税は、帳簿の赤字をもたらすが、実質的な損失をもたらさない。一方、不況は実質的な損失をもたらす。経済が縮小することで、国民も国も、ともに巨額の赤字を背負う。(ざっと見積もって、あなたもこの十年間に、年収分ぐらいを損している。年収 500万円 なら、およそ 500万円 の損。だいたい、実感通りでしょ?)

 (3) 減税は効果がない
 たしかに、小額の金では、効果がない。焼け石に水である。このことは、何度も述べた。( → 「落ち込んだ場合」
 だいたい、ちょっと想像すれば、わかるだろう。いま、3万円減税してもらったとしよう。その3万円をどう使いますか? それっぽっちの金、使わないでしょう。貯金するだけだ。だいたい、そのくらいの金では景気回復効果があるはずがないのに、楽観して金を使うはずがない。しかし、百万円をもらったら? そりゃ、使いますよね。使わずに全部貯金するような人は、よほどのしみったれだ。私だったら、ま、半額使います。で、残りは貯金する。で、何年かたったら、その貯金と利息で、増税分を払います。自分が使った分は、返さないで、「経済学的なマジック」で埋めてもらいます。貯金した分は、効果がないわけではなくて、企業の投資に使ってもらう。で、百万円全額、需要効果が出る。ゆえに、景気は回復する。その効果で、もっと景気は良くなる。……これですべて丸く収まる。税収は増える。財政は黒字になる。帳尻はちゃんと合う。めでたしめでたし。
[ なお、この「返さない金」は、湧いて出てきたわけではなくて、「不況のマイナス」(→ )をつぶすことによって生まれる。]


● ニュースと感想  (12月16日b)

 「経済財政白書」が本屋で発売中。(毎日新聞社 版 ,財務省印刷局 版 など。)

 そのうち特に、「インフレ目標」(物価数値安定目標)の項目について。
 先日( 12月05日 )には、「他人に任せず、自分で検討せよ」と私は批判した。しかし、この白書を見ると、「インフレ目標」について、自分でも検討している。新聞の解説記事くらいしかなくて、分量は少ないのだが、それでもともかく、基本的なことは書いてある。
 ただし、読んでみて、びっくりしましたね。正しいことが書いてある! びっくり。私は 「インフレ目標」簡単解説 のページの最後で、「マスコミは正しく報道していない。偽情報を書いているだけ」と記したが、白書は正しいことを書いているのだ。
 これは実に大変なことだ。新聞も雑誌も単行本もテレビも、みんな嘘ばかり書いているのに、白書は正しいことを書いてあるのだ。しかも、私のページに書いてあることの引用としか思えない説[ 速見講演への全否定 ]まで、書いてある。(文章の字句は違うが、無断引用も同然だな。まったく。)
 何と言いましょうか。……口あんぐり。官僚というのは、マスコミとは違って、頭のいい人たちがそろっているということは、これでよくわかった。朝日とか読売のように、間違ったデタラメな説ばかり掲載するのとは違って、ちゃんと正しい説を掲載している。ただし、その出典を示さないというのも、まったく(悪)賢い人々だ。これではまるで、自分たちがその説を考え出したと主張しているようなものではないか。……しかしまあ、国は営利事業をやっているわけではないから、仕方ないな。許してあげよう。
 それにしてもねえ。白書はちゃんと、私のページから引用しているんですからね。新聞社も少しは白書の真似をして、正しい説を掲載したらどうなんでしょうか。デタラメばかり掲載するのは、まったく困りものだ。社訓に、「新聞の目的は 嘘を報道すること」とでも書いてあるのだろうか。

 [ 付記 ]
 経済財政諮問会議が素案「経済財政の中期展望」をまとめた。今後5年間の経済のあり方を見通すもの。特に、「インフレ目標」を前向きに検討するべしと、日銀に要請している。(朝刊 2001-12-15 )
 そこで、経済財政諮問会議に注文しておこう。
 「検討せよ」と他人に言わずに、自分で検討してください。白書では、私のページを2箇所だけ無断引用したようだが、どうせなら2箇所とケチなことを言わずに、私のページを丸写しすればいいでしょ。そうすれば、分量たっぷりの、ちゃんとした「検討」になります。
 そもそもかつては、「日銀への反論を自分たちでまとめます」と、強く言明していたでしょうが。あの威勢のいい言明は、どこへ行ってしまったんですか? ( → 8月20日


● ニュースと感想  (12月17日)

 日本国際賞。バーナーズリー博士が受賞。WWWの発明で。(概念の提唱と、基礎技術の確立。)
( → 記事授賞理由


● ニュースと感想  (12月17日b)

 新聞記事。(朝日・朝刊 2001-12-15 )

 (1) 11月の企業倒産は、前年同月比 10% 増。負債総額は 54% 増。不況は悪化するばかり。

 (2)経済財政諮問会議の見通し。来年度の成長率は、ゼロ成長だろう、と予測する。一部の民間委員から、「マイナス成長だろう」との指摘が出たが、「そりゃ、まずい」と、強引に「ゼロ」の見通しに持ち込む。
 自分の勝手な都合で、見通しを歪めるわけ。彼らにとって大切なのは、事実でも真実でもない。(どうせ来年にはバレる嘘なのに。)


● ニュースと感想  (12月17日c)

 円安が進行している。130円 ぐらいになるかもしれない。
 で、「これで景気が回復する」と思う人もいるかもしれないが、あまり期待は持たない方がいい。
 そもそも、この程度の円安は、経済体質の弱さの反映である。景気回復効果などがあるはずがない。「熱が上がったので、これで風邪が治るだろう」と喜ぶ人もいるが、熱が上がったのは、病状が悪化したことを意味するのであり、病気が治りかけていることを意味するのではない。(ま、治癒効果も、あることはあるが。)

 それより、本質的に考えてみよう。「円安による景気回復」というのは、何か? 要するに、「景気回復には、内需が不足しているから、外需で埋めよう」という方法である。
 で、外需で埋めることができるか? それが問題だ。
 通常なら、できるだろう。数年前なら、「米国の好景気によって外需を伸ばす」というふうにできただろう。しかし今では、できない。なぜなら、世界各国が同時不況になっているからだ。仮に円安で日本の輸出が急増すれば、諸外国から急反発が生じる。為替の反対介入で円安をつぶすか、輸入制限のために課徴金を課する。 (米国はこの手をよく使う。)
 結局、「外需頼み」という方法は、通用しないのだ。内需が縮小しているときは、内需を拡大するべきであり、外需に頼るべきではないのだ。無理にやろうとすれば、課徴金。かえって外需は縮小して、逆効果となる。(一方で、輸入物価の上昇による内需の縮小は、はっきりと効果が現れる。)
 本質的な理由を言おう。「輸出で景気回復しよう」というのは、つまりは、「不況を輸出しよう」というのと同じことなのだ。そんなものは、世界同時不況のときには、他国は受け入れられない。
 結論。現在の円安は、病人の熱が上がったことを示すだけだ。お先は、明るいどころか、暗い。 (最近のさまざまな経済データも、そのことを裏付けている。ひょっとすると、通貨暴落のアルゼンチン並みになるかも。)


● ニュースと感想  (12月17日d)

 アルゼンチン続報。( 前出は → 12月12日 《 参考 》
 朝日新聞(朝刊・コラム 2001-12-16 )によると、アルゼンチンは、債務不履行の危険。景気後退で赤字が蓄積する。累積債務は 1320億ドルとなり、返済の見込みが立たない。通貨切り下げが必至となり、資金の国外逃避が急速に進む。そのせいで通貨相場がさらに下落する。政府は預金の引き出しを制限したが、その結果、商店の売り上げは激減した。国民の借金はドル建てなので、借金は急増したことになり、国民多数が破産の危機。
 要するに、国家破滅の危機である。「景気悪化で若干の通貨安」というのは、自然な現象だが、それも行き過ぎると、とんでもないことになる。( → 12月13日12月15日

 さて、ペイオフとの関連を考えよう。
 ペイオフで問題なのは、「取り付け騒ぎ」だ。これが発生すると、金融の混乱を通じて金融恐慌が起こり、それがさらに恐慌となるかもしれない。そういう急激な悪循環が実際に起こるものだ、ということを、アルゼンチンの出来事は暗示している。

 【 シミュレーションの例 】
 ペイオフ実施 → 預金喪失の恐怖が人々の頭に → ささいな噂にびくつく → A銀行倒産の予感 → おしゃべりが噂に転じる → 携帯とEメールで噂が全国に瞬間的に伝わる → 全国で取り付け騒ぎ(トイレットペーパー騒ぎの再来) → 急激な支払い要求に銀行は応じきれない → 支払い制限 → 噂の増幅 → 他の銀行でも取り付けに → 全銀行で支払い制限(トイレットペーパーではなく紙幣が不足) → 現金が出回らず、商店の売り上げ急減(アルゼンチン同様) → 企業赤字の急拡大 → 経済の急激な縮小 → 極端な円安 → 輸入物価の急上昇 → 消費がさらに縮小 → 大恐慌 → 国家破滅。 (すごろく、上がり。)


● ニュースと感想  (12月18日)

 「ワークシェアリング」をめぐる解説記事。(読売・朝刊 2001-12-17 )
 この記事は、いろいろと解説してあり、よくまとまっている。間違ったことは書いていない。しかし、一番重要なことが抜けている。それは、
 「ワークシェアリングは、景気回復策としては、適切でない」
 ということだ。
 なぜか? ワークシェアリングは、失業を減らすという意味で、不況の痛みを軽減する。失業手当に似ているが、莫大なコストのかかる失業手当よりはずっとマシだ。しかし、である。雇用を分かちあうのはいいが、それで雇用の総量(総金額)が増えるわけではない。単に分かちあうだけだ。(食糧が不足したときに、一人ずつの分け前を減らすようなもの。食糧不足そのものを解決するわけではない。)
 ワークシェアリングというのは、つまりは、「縮小均衡」なのである。経済が正常な状態よりもずっと縮小した状態で均衡する。「均衡」であるから、「不均衡」よりはマシだ。失業などのギャップは発生しなくなる。しかし、しょせんは「縮小した経済」、つまり、「不況」なのである。「不況」を脱するには、「縮小した経済」を「正常の経済」に戻す必要がある。これが本来のあり方なのだ。これが本質的な方法なのだ。ひるがえって、「ワークシェアリング」というのは、あくまで対症療法的な小手先の方法にすぎない。
 仮にワークシェアリングが成功したとする。週 35時間労働になって、失業が消えて、人々が消費を増やして、景気が回復したとする。すると、景気が回復したので、縮小した経済が元の状態に戻る。つまり、週 40時間労働となる。── 結局、ワークシェアリングが成功したなら、ワークシェアリングは消えてしまうことになるのだ。元のもくあみ。矛盾。それというのも、ワークシェアリングが、景気対策としては、本質的な方法ではないからである。
 「ワークシェアリングは景気回復の正しい方法ではない」
 このことをちゃんと理解するべきだ。

 読売・朝刊・政治面(同日)によると、公明党の代表は、こう講演している。
 「ワークシェアリングは、短期的な雇用対策として、大変有効な政策だ」
 とんでもない勘違いである。そもそも、長期的には効果があるだろうが、短期的には、あまり効果はない。たとえば、2002年の4月から実施したとしよう。で、2〜3年かけて、数%の企業が実施して、景気回復効果がいくらか出るかもしれない。しかし、2〜3年もあとでは、景気回復策としては、証文の出し遅れである。

 景気回復策としては、本質的な景気回復策を取るべきだ。ワークシェアリングは、間違いとは言わないが、邪道である。この件は、数年間ぐらい、忘れていた方がいい。そして、数年後、景気回復が実現したら、そのときようやく、ワークシェアリングを実施するといいだろう。景気が過熱して残業だらけとなる状態であれば、ワークシェアリングで時短を行なうことによって、過熱した景気を冷やして、経済を正常な状態に戻すことができる。
 とにかく、最後にもう一度、言っておく。「経済の縮小均衡などをめざすべきではない」と。


● ニュースと感想  (12月18日b)

 「減税」を民主党若手が提案。しかし鳩山は否定的。「今は良くても、国民の将来をさらに暗くする」と。(読売・朝刊・政治面 2001-12-17 )
 本気ですかね。だったら、大幅に増税すればいいでしょ。「国民の将来はとても明るくなる」はずですからね。
 そもそも経済学を考えるがいい。基本は「消費が冷えているときは減税、消費が過熱しているときは増税」だ。景気の状態に応じて、アクセルやブレーキを最適に制御するのが大事なのだ。上り坂ではアクセルを強く踏むし、下り坂ではアクセルを弱く踏む。決して無為無策でいることが最善なのではない。無為無策でいるなら、奈落の底に落ち込むことすらある。
 「減税」というのは、「ふしだら」な政策ではない。経済学的に正当な政策なのだ。なのに、鳩山ってのはそれが理解できない。経済学を理解せずに、経済を論じる。それどころか、政治のことを何ひとつ知らないで、政治を論じる。彼にできることは「小泉さんに従います」と阿諛追従(あゆついしょう)することだけ。
 ところで、野党の党首の仕事って、何をすることでしたっけ?
cf. 減税について → 12月16日

 [ 付記 ]
 「減税をしても、どうせあとで増税するだけさ」
 という見解は、正しい。「だから、そんなことをしても仕方ない」というのも、平常時には正しい。平常時なら、「今は借金して遊んで、あとで返済に苦しむ」というのは、ふしだらだし、馬鹿げている。
 しかし不況のときは、そうではないのだ。「今まさしく苦しい」のだ。ならば、「今は苦しいから借金して、あとで楽になったら返済する」というのが自然なのだ。 (誰だってそんなことは知っている。)
 鳩山はそのことが理解できない。たぶん、借金などしたことのない 金持ちのボンボン だからだろう。その日の金に困って、借金をしたがる、という庶民の気持ちを、想像すらできないのだろう。「借金なんかするな。金なら金庫にあるだろ。それを使えばいいじゃないか」と思っているのだろう。どこの家にもデカい金庫があると思い込んでいるわけだ。日々を暮らす小金がなくて、大学を退学せざるを得ない学生が続出している、という事実など、目にも入らないのだろう。
 庶民の気持ちを理解できない男が、選挙で僅差で当選したことは、実に残念なことだ。あのとき僅差で落選していれば、今の日本はずっと良くなっていたかもしれない。少なくとも、小泉という不況大魔王にかわる、別の選択肢は示されていたはずだ。


● ニュースと感想  (12月19日)

 景気は悪化するばかり。TOPIXは本年最安値。円安も進む。民間のシンクタンクによる見通しでは、GDP成長率は、本年度については、−1.0% 〜 −1.3% で、来年度は −0.5% 〜 −1.0% ぐらい。数値は各社ごとに異なるが、いずれもマイナス成長と見込んでいる。(以上、読売・朝刊 2001-12-18 )
( ※ なお、朝日・経済面は、「円安だと、輸入企業の業績が向上する」と書いているが、逆である。「輸出企業の業績が向上する」が正しい。頭が正反対。もともとそうですけどね。)

 こういう現況から、「もははデフレスパイラルに差しかかっている」という認識が広がっている。しかし、この認識は、正確ではない。デフレだけがスパイラルになるわけではない。景気というものはすべてスパイラルをなすのだ。好況しかり。不況しかり。このスパイラルは、今になって始まったわけではない。バブルが破裂した時点からずっと続いているのだ。つまり、十年以上も続いているのだ。 (一方的に落ち込むわけでははないが、ずっと抜け出せずにいる。アリ地獄の底に落ちたようなもの。)
 景気というものはスパイラルをなすということ。このことを認識するのが大事だ。( → 不安定構造
 では、なぜ、こういうスパイラルが発生するか? そこを考えるべきだ。物事の本質を理解できないと、対策もできない。
 不況のスパイラルは、次のように発生する。
 「景気が悪くなる」→「消費が減る」→「生産が減る」→「賃金削減・失業増」→「さらに消費が減る」→ (以下、循環)
 ここまでは、誰でも知っている。ではなぜ、こういう悪循環が発生するのか? 「放置すれば最適になる」というのが、自由主義経済の基本であったはずだ。なぜ、そうはならずに、「放置すれば最悪になる」のか?
 その答えを言おう。それは、「合成の誤謬」が働くからだ。不況のときには、収入が減るのだから、国民の一人一人は支出を切りつめるのが「合理的」である。しかし、一人一人が「合理的」な行動を取れば、国全体では「不合理」な行動となってしまうのだ。
 「合成の誤謬」が生じるということ。このことを理解することが大事だ。それを理解することが「マクロ経済学」を理解するということだ。
 そして、そう理解すれば、政府がどうするべきかもわかる。景気対策として、「合成の誤謬」を逆方向に働かせればいいのだ。不況のとき、一人一人が消費を増やすように導けばいいのだ。そうすれば国全体では生産が拡大して景気は回復する。つまり、国民の一人一人が「不合理」な行動を取れば、国全体では「合理的」な行動となるのだ。
 しかるに、政府はそうしない。「財政を切りつめよ」などと、なるべく合理的な行動を取ろうとする。そうして政府も国民も、「景気が悪いから支出を減らそう」とする結果、合理的な行動の総和として、不合理な行動となる。それが今の不況だ。 (つまりは、政府は、マクロ経済というものを理解していないわけだ。「構造改革」を進めて、合理的な行動の総和を取ろうとするが、そこに「合成の誤謬」が働くことに気づいていないわけだ。)
 「自分は利口だ」と自惚れた人々が集まると、愚劣な国となるのである。



● ニュースと感想  (12月19日b)

 「日銀は社債やCPを購入すべし。そうすればマネーが出回り、量的緩和になる」という意見が出ている。与党幹部のほか、竹中など。(読売・朝刊 2001-12-18 )
(【 注 】 CP:コマーシャル・ペーパー:金融機関の保証のついた無担保約束手形)

 こんな意見は「素人の妄言」と思って、無視するつもりでいた。しかしとうとう、一国の大臣までが、こういうデタラメを言い出すとは。呆れたものだ。
 なるほど、(現金以外の)マネーが出回れば、量的緩和の意味が出る。しかし今や、現金で量的緩和をしても有効でないのだ。そういうときに、(現金以外の)マネーで量的緩和をしても、有効になるはずがない。企業はそれで得た現金を、銀行に預金するか、負債返済に使うだけだ。
 量的緩和が有効になるのであれば、銀行がせっせと貸し出しをしているはずだ。融資も社債もほとんど同等のものであるからだ。銀行が融資をしないのは、銀行がその能力を持たない(不良債権のせいで融資できない)のではなくて、企業自身が融資を望んでいないからだ。今や、企業は、せっせと有利子負債の削減に励んでいる。
 では、なぜ企業は借りないか? それを理解するべきだろう。理由なら、経済財政白書の要約 (pdf) にちゃんと書いてある。
 (1) デフレで実質金利が急上昇している。 (9ページ)
 (2) (需要低迷から来る)貸し出し需要の低迷。 (14ページ)

 つまり、「借りれば損する」 「借りても投資先がない」 ……というわけだ。
 竹中さん。経済財政白書の要約ぐらい、ちゃんと理解してくださいね。そのくらいの学力がないと、大学教授をクビになりますよ。(あ、もうクビになったか。そのうち、大臣もクビになるかも。)

 [ 付記 ]
 通常、企業にとっては、わざわざ社債を買ってもらっても、特にありがたくはない。融資も社債もほとんど意味は変わらないからだ。
 ただ、例外的に、差が出る場合がある。それは、銀行が融資してくれない場合だ。つまり、企業が倒産しそうで、融資を受けられない場合だ。たとえば、マイカル。こんな会社に、銀行は融資しないし、むしろ融資を引き上げる。となると、マイカルとしては、社債を発行するしかない。その金を投資するつもりはないが、その日の運転資金に事欠くので、とにかく社債を発行する。
 だから、日銀が社債を買うとしたら、マイカルのような会社の社債を買うことになる。そして、最後に、社債は紙屑となり、日銀の金は泡と消える。……竹中が望んでいるのは、そういうことだ。 (日銀総裁を引責辞任させて、その後釜に自分が座りたい、という魂胆かもしれない。クビになったときに備えて。)


● ニュースと感想  (12月20日)

 ペイオフ批判の意見。シミュレーションではない、実際の失敗例を示す。米国で 80年代に実施したときの実例では、不安が広がり、ひどい金融混乱が生じた。……とのこと。(読売・朝刊・投書面 コラム 2001-12-19 )
 つまり、私の主張を裏付けているわけだ。( → 12月17日d
 とにかく、建前優先の原理主義にこだわって、現実を無視すると、こういうひどい事態を招くわけだ。注意しよう。どこの国でも、原理主義は国を滅ぼすものだ。


● ニュースと感想  (12月20日b)

 東芝がDRAM製造から撤退。(朝刊 2001-12-19 )
 競争力をなくして、撤退したわけだ。「劣悪な企業がひとつ退出した。これで構造改革がまた進んだ」と、小泉は大喜びだろう。しかし、そんなことをどんどんやっていれば、日本のDRAM製造はすべて退出してしまう。「構造改革が進めば進むほど、日本の経済力は縮小してしまう」のだ。下手をすれば、日本からあらゆる産業が消えてしまう。こういう「構造改革 至上主義」は、明らかに間違っている。……では、どこが間違っているのか? 
 9月22日b (劣悪な企業を退出)で述べたように、不況とは、「状況を悪化させて、あらゆる企業を劣悪にする(そうして耐えきれなくなったものから死なせる)」状態である。こんなことをやっても、経済体質は向上しないし、かえって低下する。
 となれば、なすべきことは、「体質の強化」そのものである。「全員を劣化させる」という構造改革とは逆に、「全員を優良化させる」とすればいいのだ。構造改革とは正反対の方向をめざせばいいのだ。
 「構造改革」ではなくて、「体質の強化」をめざすということ。これが大事だ。具体的に示そう。DRAM産業は、どうすればいいか? 「内外価格差があるから、韓国メーカーには勝てっこない。賃金の引き下げをするべきだ」と唱える人もいる。しかし、米国や欧州の企業は、1企業だけは生き残っているのだ。1地域に1企業ぐらいは生存可能なのだ。しかるに、日本には、DRAM生産をする企業がひしめいており、いずれも撤退寸前である。いずれも虚弱な体質である。……こう言えば、わかるだろう。日本のDRAM生産をする企業部門はすべて統合して1企業にするべきなのだ。そうすれば生き残れる。そうすれば体質の強化が進む。(今からでは、手遅れかもしれないが。)
 ともあれ、これが私の処方だ。一方、小泉の処方は、DRAMにせよ、青木建設 にせよ、「劣悪な企業を退出させよ」である。小泉の処方が進めば、日本は、DRAM生産からの撤退にとどまらず、あらゆる産業が縮小していく。それが「構造改革」というものだ。
 要するに、「構造改革」とは、経済的な死に至る道であり、根本的に間違った政策なのだ。「構造改革」は、平常経済のときには有効だが、不況のときには効果どころか逆効果ばかりが現れる。その事実に気づいた方がいい。 ( → 10月06日10月22日12月11日(3)

 「構造改革はすばらしい」とマスコミは称賛する。しかしそれは、ナチスを称賛するのも同然である。その言葉通りに進めば、先には、破滅があるのみだ。
 昔の日本軍は、連戦連敗という現実を無視して、猪突猛進した。昔も今も同様である。妄想ゆえの現実無視


● ニュースと感想  (12月20日c)

 特殊法人改革の方針がまとまる。(朝刊 2001-12-19 )
 数だけは多いが、ほとんどは「組織形態の変更」にすぎず、「看板の付け替え」ぐらいに終わっている。実質的には何も変わっていないのも同然、ということだ。
 ま、小泉のやることだから、こんなものだろう。「羊頭狗肉」の見本。もしくは「獅子頭 狂牛肉」か。

 なお、「小泉の改革は不十分だ」と新聞は批判するが、私の見解は違う。「不十分」ではなくて、そもそも根本的に、めざすものが間違っていると思う。抜本的改革など、半年ぐらいでできるはずがない。国鉄にせよ、電電公社にせよ、抜本的改革には、何年もかかった。半年間で何もできないとしても、当然のことだ。
 私が首相だったら、どうするか? 抜本的改革には、まだ手をつけず、後回しにする。当面はまず、組織のボスの首をすげ替える。官僚出身の老人から、民間出身の若手へと。
 これなら、あっという間にできる。しかも、効果は確実だ。日産のゴーン社長のようなボスの下で、組織の体質を根本的に変える。NTTでやったことを、各特殊法人でやるわけだ。
 これはどういうことか? 「構造改革」なんかはやらないで、組織の「体質改革」をめざすということだ。これこそ、なすべきことなのだ。


● ニュースと感想  (12月20日d)

 狂牛病。世論調査では 76% の人々が政府に批判的。「責任の明確化」を求める声も多い。(読売・朝刊 2001-12-19 )
 「責任の明確化」。そうです。これが肝心。問題を起こしても、責任を問われないのでは、問題が続く。狂牛病であれ、何であれ。

 特殊法人問題もそうだ。ダメな運営をしたら責任者が責任を問われる、という仕組みが必要だ。
 (ついでに言えば、政府もそうすべき。デフレ解決に失敗した首相はクビになる、というふうに。)


● ニュースと感想  (12月21日)

 日銀が追加金融緩和。(朝刊・各紙2001-12-20 )
 読売が記事で大々的に批判している。これは立派。ただし、悪口が足りない。「政府と日銀はダメだ」と言っているのはいいが、なぜダメかをはっきり示していない。相手の傷口に塩をすりこむような悪口が不足している。
 読売は示さないから、イヤミな私が示しておこう。

 第1に、いくら量的緩和をやっても、無効である。
 なぜなら、企業は金を受け取らないからだ。銀行が貸さないのではなく、企業が投資資金を必要としていないのだ。(必要なのは倒産寸前の企業のための運転資金だけ。これは、貸しても、焦げつくことが多い。ゆえに無意味。)……とにかく、企業が投資しないのだから、いくら量的緩和をしても、需要拡大に結びつかない。景気回復効果はゼロだ。(「まったくゼロということもあるまい」と思うかもしれないが、まったくゼロである。なぜなら、すでにゼロ金利で貸し出しており、新規の投資需要は出し尽くしているからだ。)

 第2に、景気回復は、総需要の拡大のみが、効果をもつ。
 そもそも、なぜ、企業は投資しないのか? 生産しても売れないからだ。つまり、個人消費がしぼんでいるからだ。こういう状態では、「投資を増やせ」と企業のケツをひっぱたいても、無意味なのだ。(読売はそういう無意味な主張をしているが。) ……「生産しても売れない」という現状を理解するべきだ。そして、理解したなら、対策もわかる。つまり、「生産したものが売れるようにする」「個人消費の全体を増やす」「総需要を増やす」ということだ。
 「総需要の拡大」。これのみが景気対策としては有効なのだ。このことを指摘しない限り、マスコミの報道は無意味である。いくら日銀を批判しても、しょせんは同じ穴のムジナにすぎない。(どちらも間違った主張をして、不況を継続させている。)


● ニュースと感想  (12月21日b)

 中央公論(2002年1月号)の寄稿記事。いずれも「デフレ批判」。

 (1) クルーグマン。
 特に目新しいことは述べていない。私としては、「悪口が足りないな」と感じた。(私がイヤミすぎるだけかも。)

 (2) 浜田宏一。
 内外価格差をめぐって、野口悠紀雄批判。「変動相場制というものを理解していない。学生なら落第」というような話。悪口が下品。(私も人のことは言えないが。)
 この人の説では、おかしな点がある。「インフレは実質賃金を下落させる。だから景気回復に有効だ」という話。しかし、これは勘違い。
 インフレでは、一般的に実質賃金を下げるわけではない。実質賃金を下げるのは、一部の劣悪な企業のみである。退出させられる(倒産する)かわりに、賃下げをする。そして、それ以外の大部分の企業は、倒産するわけではないから、賃下げはしない。仮に、大部分の企業がそろって賃下げをすれば、総需要が縮小して、景気は悪化する。( → 12月19日 「合成の誤謬」)
 そもそもこの人は、インフレというものを勘違いしている。企業と労働者の利益配分を見て、「インフレなら、企業の利益配分が高まる(だから業績が向上する)」と主張する。しかし、そんなことになっても、企業が得をする分、労働者が損をするだけだ。パイの分け前の奪い合いにすぎない。全体では何の意味もない。
 インフレの本質は、パイの分け前の変化ではない。パイそのものが大きくなることだ。なぜか? なぜそんなうまい具合に行くのか? 実は、パイそのものが大きくなるというよりは、パイのうちの無駄が消えるだけだ。デフレでは、設備や労働力の遊休という、多大な無駄(生産性低下)が発生する。その無駄が消える。だから、パイの無駄が消えて、企業と労働者の取り分は、どちらも増える。これがインフレ(アンチ・デフレ)の本質だ。
 だいたい、「実質賃金を下げることで、企業の体質を強めよ」というのでは、野口悠紀雄と同じ穴のムジナだ。「個別企業は得をしても、(収入減で)一国の総需要が縮小する」という合成の誤謬を、理解してないことになる。結局、「マクロ経済を理解していない」という点で、この人も落第。似た者同士、二人で廊下に立ってなさい。
[ ※ なお、付言しておく。初年度と、それ以降との違いだ。初年度よりもあとでは、(もはやデフレを脱したので)実質賃金は下がらない。しかし初年度は、インフレの分だけ、実質賃金が下がる。これは、需要縮小をもたらし、悪影響が出る。だからこそ初年度に、(中和政策で)金を渡す必要があるのだ。]


● ニュースと感想  (12月21日c)

 アルゼンチン続報。(夕刊 2001-12-20 )
 「戒厳状態」を宣言。というのも、失業率が 18% で、国民の不満が溜まっていたところに、預金引き出しを制限。ゼネストが起こり、略奪騒動も。まさしく、国家破局が現実となる。
 ペイオフを実施したときの日本も、こうなる可能性が高い。明日はわが身。 ( → 12月17日d12月20日
( ※ 失業率だけを見ても、日本とかなり似ている。統計の取り方をそろえれば、日本の失業率は実質 10% 程度になる、という点に注意。)


● ニュースと感想  (12月21日d)

 来年度の予算。超緊縮型。(夕刊 2001-12-20 )
 「デフレ下で財政再建をめざして、超緊縮型予算を組めば、景気はますます悪化する」
 というのは、マクロ経済学の常識。読売は、このことを記事で指摘している。マスコミとして、当然。しかし、朝日は、逆。「これでも財政再建はできない」という批判。つまり、「不況下にもっと財政緊縮せよ」というわけ。マクロ経済学のイロハも知らない。
 呆然。口あんぐり。朝日の社員には、経済学を知っている人が、一人もいないんですか? 誰か一人くらい、自社の無知と間違いを指摘できないんですか? 不況のときに財政再建をめざせば、逆にどんどん赤字が拡大していくということがわからないんですか? このままじゃデフレスパイラルで奈落の底に落ち込むということがわからないんですか? 
 マクロ経済学がどうこうということは、読売にも書いてあるし、経済学の入門書にも書いてある。私はいちいち説明はしませんけどね。朝日ってのは、どうなっているんだろう? 無知と狂気の集団? 
( ※ 仮に、「自分たちは別の意見なのだ」と主張するのだとしても、最低限、政府側とは反対の意見も掲載するべきだろう。なのに、「規制緩和で景気回復ができる」というふうに、政府の文書にあるウソの丸写しだけ。ただの政府広報紙ですね。公正な報道はせず、情報提供はゼロ。マスコミの責任の放棄。社主は ゲッベルス?)
( ※ 注 ── 「規制緩和」は、「供給を過剰にする」ことを意味する。需要不足のときに、供給を過剰にすれば、景気回復どころか、景気悪化の効果があるだけ。政府と朝日のウソに洗脳されないように注意。)


● ニュースと感想  (12月22日)

 予算続報。 (前項の続き)
 朝日新聞(朝刊 2001-12-21 )は、「政府は財政緊縮するしかなかった」と、しきりに政府弁護。
 あのねえ。新聞が、政府の弁護をして、どうするんですか。役割が違うでしょ。しかも、「選択肢は他にはない」とウソを述べるが、ウソはやめてほしいですね。選択肢は、ちゃんとあります。(個人消費拡大のための)「減税」というのが。( → 12月16日(2)


● ニュースと感想  (12月22日b)

 国債の格付けについて。
 「財政赤字が溜まると、国債の格付けが低下する」
 という意見がある。これは、正しくない。

 12月16日(2) でも示したが、(公共事業でなく)減税による財政赤字であれば、政府と国民との間で金のやりとりがあるだけだ。国全体では、金は少しも減っていない。公共事業支出や貿易赤字と違って、国全体の金がなくなるわけではない。結局、減税による財政赤字は、将来の増税を意味するだけであり、国債の格付けには全然影響しない。
 むしろ、景気がどんどん悪化すると、収入不足で、財政赤字が拡大する。しかも、経済体質の弱体化で、増税も不可能となる。その方が心配だ。結局、現在、国債の格付けが低下しているのは、財政赤字が問題だというよりは、日本の経済体質の弱体化が問題となっている。常識ですね。
 つまりは、「(実力以上の支出としての)財政赤字が問題となって、格付け低下」というのは、供給能力を持たない中南米諸国には当てはまるが、供給力過剰に日本には当てはまらない。頭の固い帳簿主義のIMFだって、今や「財政赤字を拡大してでも、景気を回復させよ」と言っているくらいだ。 ( → 毎日新聞記事
 結論。緊縮財政にすればするほど、(財政赤字ではなくて経済弱体化により)国債の格付けは低下する。さらに、最悪の場合、デフレスパイラルの末に、経済的破局に至るかも。
( ※ 「超緊縮財政 → 経済縮小 → 国家破局」というのは、今、アルゼンチンのたどっている道。)


● ニュースと感想  (12月22日c)

 キャピタルフライト。いくらか話題になっている言葉。同題の 書籍 から来たようだ。
 どういうことかと言うと……
 財政赤字が拡大して、国債残高が異常に高まり、しかも景気は悪い。国債の格付けがどんどん下落している。国民は、日本の国債を信用しなくなり、外国の国債を買うだろう。資金の国外逃避である。それがいっせいに起こったら、大変なことになる、……というわけだ。

 この問題を、どう評価すべきか? いきなり結論を述べよう。キャピタルフライトなんてものは、それ自体は、大騒ぎすることはない。
 なるほど、「恐慌になったら」という想定をして、そういう想定のもとで、「恐慌になったら、資金がいっせいに国外逃避する」というのならば、わかる。(アルゼンチンの例を見よ。 → 12月17日d ) しかし、恐慌ではないときなら、「資金がいっせいに国外逃避する」という心配は不要だ。理由は、次の (1) (2) の通り。

 (1) 小さなキャピタルフライトはすでに発生している(円安の進行)
 「資金があるときいっせいに、急激に国外逃避する」
 という心配だが、そうではなくて、すでに小規模ながら、資金の国外逃避は始まっている。その証拠が、最近の円安だ。
 12月12日 に述べたとおり、デフレのときは、資金が国外逃避するのが当然である。(利回りの低下/将来の国債暴落の危険/社債の元金保証がなくなる危険)
 「無知な人々が真実に気づいたら」というのが、著者の心配のようだ。しかし、人々は馬鹿ではないし、「あるとき急に気づく」なんてことはないのだ。著者は、自分だけがよほど頭がいいと思っているらしいが、そんなふうに人々を馬鹿にしてくださらなくても結構である。

 (2) 大きなキャピタルフライトは原理的に発生しえない(円安の限界)
 さて、(1) のことにより、キャピタルフライトは、現在、小規模に発生している。では、それが無制限にスパイラル状に拡大する危険は、あるだろうか?
 ない、というのが答えである。つまり、キャピタルフライトには、限度がある。野放図に大量の資金が流出する、なんていう心配は不要だ。
 12月13日 に述べたとおり、資金の国外逃避が有効なのは、この先、円安になると予想された場合だけだ。(つまり、この先どんどん経済状態が弱まって、不況が深刻化する、と予想された場合。) たしかに今は、この先、不況が深刻化して円安傾向にある、と予想されている。だから、資金の国外逃避は進んでいる。しかし、それが野放図に進むわけではない。景気が底を打って反転すれば、また円高になる。となると、国外逃避した資金が日本に戻ったとき、大幅な為替差損をこうむることになる。(これはかつて日本の金融機関が経験したはずだ。レーガノミックスのころ、高利に釣られて米国国債を買ったが、償還を迎えたころは、円高になって、膨大な為替差損をこうむった。たしかに多大な利息を得たが、元金そのものが大幅に減少してしまった。)
 結局、日本経済自体がしっかりしていれば、円安が防止されるから、キャピタルフライトも生じないわけだ。(仮に資金を国外逃避させれば、その人は、景気回復後に、大損することになる。)
 「円安に歯止めがかかる」ことには、もうひとつの理由もある。日本政府は膨大な米国政府証券を持っている。いざとなったら、これを売り払うことができる。米国から日本へ、「逆キャピタルフライト」を発生させることができるのだ。だから、本当なら、心配すべきは、日本ではなくて、米国なのだ。
 結論。
 心配は不要だ。
 「経済の破局が原因となって、キャピタルフライトが発生する」(破局キャピタルフライト)ということは、ありうる。しかし、そのときはもう、破局しているのだから、心配しても無意味だ。一方、「大規模なキャピタルフライトが原因となって、日本経済が破滅する」(キャピタルフライト破局)なんてことは、ありえない。そんな心配は、原因と結果が反対になっている。
 著者はたぶん、「中南米やアジア諸国では、経済弱体化のあと、資本逃避が発生して、経済破局になった」というのが念頭にあったのだろう。しかし、日本経済は中南米のように供給能力がないわけではない(むしろ余っている)し、かつてのアジア諸国のようにバブルがふくらんでいるわけでもない(むしろバブルはつぶれている)のだ。事情が全然異なる。
 なのに、このような恐怖をあおるのは、一種のデマゴークである。やたらと民心を惑わせるわけだ。(この本を読んだらしい政府関係者が、「キャピタルフライトが起きないかと、夜もおちおち眠れない」と心配していたそうだ。かわいそうに。)
 ただし、こういうふうに恐怖をあおると、うまいこともある。本が売れるのだ。(ベストセラーの上位にランキングされていた。) 「ノストラダムス」もそうだが、民心を惑わせて金儲けをしようとする輩が多いわけだ。日本経済を腐らせて、自分の経済だけを豊かにさせようというわけだ。なるほど、うまい手だ。……だまされないようにしよう。
( ※ だまされて「財政赤字を縮減せよ」と唱える人も多いが。誰とは言わないけどね。)
【 注 】 用語解説
  「キャピタルフライト」(capital flight)という用語だが、普通は、「資本逃避」という日本語を使う。特殊な用語ではなく、ありふれた言葉である。なのに、あえて英語で言うのは、無知な人々を驚かすつもり? それに乗じて、金儲けするために?
 [参考]  fright 驚き /make capital of …に乗じる。


● ニュースと感想  (12月23日)

 「キャピタルフライト」の書評をいくらか。前日分のつづき。
 この「キャピタルフライト」という題名の本には、「キャピタルフライト」の話題以外にも、いろいろな話(景気回復をめぐる話題)が出ている。しかし、デタラメばかりだ。山のようなデタラメ。そのうち、特に目立つデタラメを、いくつか拾って示しておく。

 (1) 「インフレは円の価値を下落させる。これは資本逃避のきっかけを与える」
 話が逆である。「インフレは資本逃避を発生させる」のではなく、「デフレは資本逃避を発生させる」のだ。実際、最近、円安が急速に進行している。( → 詳しくは 12月12日

 (2) 「インフレ目標を実行すると、物価上昇が見込まれるので、長期金利が上がる。かえって景気回復が遅れる」
 話が逆である。「インフレ目標を実行しないと、長期金利が上がる」のである。( → 詳しくは 「インフレ目標」簡単解説
( ※ なお、この件は、「経済財政白書」にも書いてある。私の説明したことを、そっくりそのまま書いている。字句は変えてあるが。)

  (3) 「(インフレだと)フィッシャー方程式により、実質金利が同じならば、名目金利が上がる」
 論理が逆である。「(インフレだと)フィッシャー方程式により、名目金利が同じならば、実質金利が下がる」が正しい。詳しくは、第3章(前) の「フィッシャー方程式」の説明の箇所を参照。

 (4) 「ハイパーインフレが起こって制御不可能になることがある。例は、戦後の日本だ」
 無意味だ。(戦争直後で)供給が激減すれば、ハイパーインフレが起こるのは当然である。しかし今は、供給過剰(需要不足)なのだ。「供給が激減すれば」という前提が成立しない。多少、物価上昇が起こっても、供給は十分なのだから、ハイパーインフレが起こることはありえない。
 しかも、である。戦争直後のハイパーインフレという極端な状態でさえ、インフレというものは制御が可能なのだ。実際、このハイパーインフレは、収束させることができた。その政策を「ドッジライン」と呼ぶ。……著者は「ドッジライン」も知らないようだ。中学生時代、歴史の授業を勉強しなかったようだな。
 アルゼンチンでも、放漫財政によって、年率 5000% (!)のハイパーインフレが起こったが、これも財政緊縮で解決された。(読売・朝刊・海外面 2001-12-21 )
 インフレには財政緊縮が非常に利くのだ。これを知ることが大事。一方、デフレのときに財政緊縮をすれば、どうなるか? すぐわかりますよね。実際、日本とアルゼンチンが、見事に証明しています。かくて、体温が低下しているときに解熱薬を飲まされて、ほとんど瀕死状態へ。


● ニュースと感想  (12月23日b)

 アルゼンチン続報。( 前回は : 12月21日c
 大統領が辞任(戒厳状態は解除)。通貨の切り下げは必至。それにともない、株価は急上昇、物価も上昇の見込み。( 2001-12-21 夕刊 〜 2001-12-22 朝刊)
 そこで提案。日本も「国債のデフォルト」を宣言してみたら? (これは冗談ですが。)
 すると、どうなる? たちまち、キャピタルフライトが発生。あげく、円は暴落し、株価は急騰し、物価もどんどん上昇するだろう。これはつまり、円安主義者の狙い通りだ。
 私としても、この狙いは、一面的には成功すると思う。株価も物価も急上昇。円は暴落して輸出産業も潤う。ただし、である。円安主義者は気づかずにいるが、「実質賃金の大幅低下」「対外債務の急上昇」「経済の萎縮」「富の国外流出」という問題も、同時に襲いかかる。
 「円安を」というのは、「日本のアルゼンチン化」である。下手をすれば、暴動も発生するだろうし、戒厳令も布告されるかもしれない。……これは冗談ではない。「円安から軍部支配へ」というのは、日本がいつか来た道だ。(井上準之助の数年後。 → 9月11日10月16日


● ニュースと感想  (12月23日c)

 米国の経済対策法は、とうとう年度内不成立。減税賛成の共和党と、減税反対の民主党の、与野党対立が主因。「減税なんかしなくても、来年後半には景気回復するさ」という楽観的な見通しがあるせいらしい。 (朝日・朝刊・経済面 2001-12-22 )
 そんな楽観をしているとはね。アメリカも小泉にそっくりだ。
 となると、そっくりついでに、アメリカも日本みたいな状態になるかもしれない。 このままだと、「流動性の罠」に入って、抜け出せなくなるかもしれない。……その可能性はかなりあると思える。
 実際にそうなるかどうかは、何とも言えない。私は予言者でも占い師でもない。ただ、「楽観した上で、危険を冒す」というのは、まさしくギャンブルだ。一国経済の命運を賭けて、サイコロを振るわけだ。とんでもない巨大な賭けである。米国ってのは、すごいギャンブラーだな、まったく。
( ※ なお、「若干のインフレ」という保険料を負担すれば、こんな危険なバクチを打たずに済む。アメリカも小泉も、ひどいギャンブル狂だ。両者の違いは、アメリカはまだ負けていないが、日本は 10年間 負けっぱなしで破綻寸前だというところ。それでもギャンブルを続けるのが、小泉。「来年夏には景気回復だ。今度こそきっと勝てるぞ。今度こそ」)


● ニュースと感想  (12月24日)

 朝日新聞コラムに、小泉擁護論。(夕刊2面コラム。2001-12-22 )
 抵抗勢力(自民保守派)の言動を批判している。書いた本人は、「自分は正しいことを書いた」と思い込んでいるのだろう。いかにも正義漢ぶった、臭い文章である。
 しかし、自分自身は、どうなのだ。マスコミでありながら、公正な報道を心がけず、政府べったりの偏向した報道をする。あげく、抵抗勢力がちょっとでも「われらのアイドル小泉様」を批判すれば、ただちにこういう「小泉擁護」を書く。まったく、自分というものを省みず、よくも抵抗勢力を批判できるものだ。そもそも、対立意見を排除して言論弾圧しているのは、抵抗勢力じゃなくて、朝日自身でしょうが。まったく、もう。(目クソが鼻クソを……よりも悪いな。言葉が汚くなるので、ちょっと書けないが。)
 朝日さん。たしかにあんたたちは、「抵抗勢力」ではないが、ただの「権力の忠犬」にすぎないのだ。もし違うというのなら、ご主人様たる小泉に向かって吠えてみるがいい。ま、無理でしょうけどね。(せいぜい小泉の足元で、「ワン」と吠えるだけ。シッポ振って。)
( ※ 朝日の小泉擁護の例は → 12月22日 など。これもそうだが、とにかく、朝日の最近の「忠犬」ぶりは、目に余る。朝日のなかで、唯一の例外を探すとしたら、朝刊4コマ漫画(ののちゃん)に出てくる犬だけだ。この犬は、立派なことに、すごいひねくれ者で、飼い主のやることに、いちいち逆らう。[22日] この犬だけは、マスコミにいる資格があるが、他の記者たちは、マスコミにいる資格はない。官邸の犬小屋にでも引っ越しなさい。そのあと、新聞の発行は、ポチに任せなさい。)


● ニュースと感想  (12月24日b)

 鳩山は小泉に対決する方針を出したとのこと。(朝日・朝刊 2001-12-19 )
 しかし、である。「アンチ小泉」ではなくて、「温かい構造改革」路線を取る。つまり、「小泉に従うのをやめます」と言って、「小泉もどきになります」である。冗談ですかね。 (これじゃ、参院選前の方針に戻っただけだ。1ぺん回って、ワンと吠えただけ。シッポ振って。)
 で、政策として、何を実行するかというと、「ハローワークを訪問します」だって。それが景気回復策ですか。「ハローワークに行って、『ハロー』と挨拶すれば、景気が回復します」。……何 考えているんだか。どうせハローワークに行ったなら、ハローワークの窓口に並びなさい。

 (19日のテレビのニュースによると、鳩山は「小泉の経済政策はダメだ」といっている。これは一歩前進。だけど、自分の経済政策は、ゼロのまま。ま、知恵がないのは当然だろうが、小泉に逆らう気概さえないのは実に情けない。)


● ニュースと感想  (12月24日c)

 企業の「自社株買い」が急増しているという。1兆円以上の規模。銀行の「持ち合い株式解消」の売却分に匹敵する。なぜかというと、10月に「金庫株」の保有が解禁されたせいらしい。(読売・夕刊・2面コラム 2001-12-22 )
 では、このことの意味は? 次の2点だ。

 (1) 投資需要がない
 企業は通常、株式を発行して、資金を入手する。しかし、不況の今は、逆の行動を取る。つまり、「手元に金があれば、投資に使うよりも、自社株買いに使う」わけだ。
 もちろん、これは、自然な行動である。手元の金は、投資しなければ、預金か自社株買いか、どちらかだ。で、銀行預金は利回りゼロなので、(長期的にプラスの利回りの見込める)自社株買いの方に使うのだろう。
 ともあれ、これで証明されたことがある。「いくら金融緩和をしても、企業は金を投資に回すことはない」つまり、「これ以上の金融緩和は無意味だ」ということだ。(いまだに「金融緩和をして投資を増やせ」と唱える人も多いが。)

 (2) 株式相場はさらに下がる
 10月以降、景気はどんどん悪化していった。なのに、不自然なことに、株式相場は堅調だった。その理由が、上記のことから、理解される。つまり、「企業の自社株買いがあったので、相場は支えられた」というわけだ。
 では、今後は? 過去2カ月間は、企業の自社株買いがあったが、そういつまでも自社株買いをつづけていられるわけではない。一方、銀行の「持ち合い株式解消のための株売却」は、なくならない。なくならないどころか、さらに増える見込みだ。( → 12月01日c ) となると、均衡していた売買のバランスは崩れ、売りが圧倒的に多くなる。相場は大幅に下落しそうだ。
 ま、私は相場師ではないので、株価の見通しなどはしないが、平均株価が 9000円ぐらいになるのなら、当然だろう。9月以降、景気はどんどん悪化しているし、円もどんどん下落している。株価だけが妙に安定していた。この不自然さは、解消されるのが当然だと思える。
cf. 私は相場師ではないが、「130円に」という円安の見通しは、ぴたりと当たってしまった。 → 12月13日 。これを読んで売買したトレーダーは、数日間で巨利を得ただろう。ううむ。私のページを読んで、大儲けする方法もあるんですね。私自身は、ちっとも儲からないが。)


● ニュースと感想  (12月25日)

 アルゼンチン続報。債務不履行になる見通し。通貨切り下げは拒否の見通し。国民生活の低下を嫌ってのことだという。(朝刊 2001-12-24 )
 さて、アルゼンチンはどうするべきか? 経済学的な処方箋は? ── 私としては、「通貨切り下げ」が正しい処方箋だと思う。
 ただ、そう言うと、反論が来そうだ。「前は、『円安はダメだ』と言ったではないか。日本とアルゼンチンで、話が反対だぞ。どうなっているんだ?」と。そこで、説明しておく。
 11月07日 の後半では、次のように書いた。
 “仮に、日本がいまだ途上国で、供給能力がろくにないのならば、この方法(通貨切り下げ)で供給能力を増やす必要がある。しかし、現実には、日本には十分な供給能力があるのだ。だから、正しい政策は、「(供給を増やすために)自分の労働を安売りすること」つまり「日本が途上国になること」ではなくて、 「総需要拡大」なのである。”
 結局、両国は、事情が違うのだ。日本は、供給過剰なのだから、「通貨切り下げ」という供給拡大策を取るべきではない。一方、アルゼンチンは、供給不足なのだから、「通貨切り下げ」という供給拡大策を取るべきなのだ。(国民生活を低下させる代償を払っても、賃金切り下げによって輸出を増やして供給拡大するべき。)
 要するに、先進国と途上国では、事情が違うわけだ。日本は先進国なのだから、途上国のようにふるまうべきではない。一方、アルゼンチンは、まさしく途上国なのだから、途上国のようにふるまうべきなのだ。途上国が先進国のようにふるまうのは、身のほど知らずの過大なふるまい[浪費癖]であり、いつかは破産するのは当然だろう。(実力以上の通貨相場を維持すれば、当面は楽な生活を送れるが、輸出ができなくなるので、供給力と所得を失う。)

 さて、冗談で言うと、うまい方法がある。アルゼンチンと日本を同時に救う方法だ。一石二鳥の方法だ。それは、小泉をアルゼンチンに輸出することだ。「供給主義者」の小泉は、日本では迷惑なだけだが、アルゼンチンでは有益な存在となる。
 小泉は、「構造改革」とか「米百俵」とかいう、途上国の方針を持ち出す。だから、小泉は途上国の首相としては、実に最適なのだ。(たぶん、日本を途上国だと思い込んでいるのだろう。「おしん」と同じころに育ったのかもね。)
 ともあれ、おたがい、不適合な為政者をもつことが、両国の不幸である。小泉をアルゼンチンに輸出するときは、代金はタダでいい。だから、どうか、もらってください。のしも付けます。


● ニュースと感想  (12月25日b)

 新聞批評。予算案の解説記事について。(朝刊 2001-12-25 )

 読売は、よく書けている。「目下の最大の問題は不況である」と見極めて、「それの対策が全然できていない。あれもダメ、これもダメ」と、鵜の目鷹の目で、問題点をあげつらう。頭を使って、しっかり考えている。また、世界各国からの批判(「これじゃデフレは解決できない。景気対策をするべし」)も、掲載している。十分な情報量がある。

 朝日は、正反対。同じ国の新聞なのかと、目を疑いたくなるくらい。まず、「現在の最大問題は不況」という視点が欠落している。(「この十年間」という回顧記事はあるが、それだけ。) これだけ読んでも、日本がいまひどい不況にあるとは、とても信じられないくらいだ。さらに、「新規予算でこんなに素敵」なんてのを読むと、まるで今は好況であるかのようだ。
 のみならず、政府を肯定している。
 批判の目が曇っているから、政府のヨイショをするばかり。情報が全然欠落している。こんな情報欠如の新聞は、購読する価値もない。こちらがお金を払うのに、政府のPRばかり読まされるとはね。新聞全体が広告だらけ。(どこに記事があるんだろう?)
 朝日の読者のみなさん、購読しつづけるべきかどうか、考えた方がいいですよ。こんな新聞を購読していると、情報不足で、世の中から取り残されます。別に、朝日をつぶしたいわけじゃないですけどね。朝日だけを購読していると、読者自身が損しますからね。読者のためを思って。


● ニュースと感想  (12月26日)

 書評。 「2002年 日本経済の進路」 という富士総合研究所の新刊書。(2カ月ほど前のもの。)

 正しい指摘もある。次のように。
 このように正しい指摘もあるのだが、とはいえ、全体的には、ピンぼけだ。次のように。  総評。
 大きく間違っているわけではないし、ひどい嘘を言っているわけでもない。とはいえ、真実というマトから大きく逸れている。あまりにもピンぼけ。
 一言でいえば、「凡人の知恵を寄せ集めた」という書物である。あちこちから資料と論文を集めて、一冊にまとめただけだ。小さな断片はよくできているが、「統一性をもつ」「核心をつかむ」ということは、全然できていない。木を見て森を見ず。かくて、物事の本質を、ものの見事にはずしている。
 ま、学生のレポートのようなものである。学生のレポートとして見れば、90点を上げよう。
 なお、インフレ目標について言及していないのは、かなり減点となる。この点、経済財政白書の「インフレ目標」の言及と比べると、雲泥の差がある。白書の方がはるかに上だ。(といっても、白書は、私のページをカンニングしたのだから、当然か。)

 [ 付記 ]
 白書の方は、本書と比べ、明らかに劣っている点もある。「構造改革で景気回復」という妄想を書いている、という点だ。 (これが主題にもなっている。)
 ただ、私が思うに、「構造改革で景気回復」なんていう妄想を、優秀な官僚が本気で信じているとは思えませんね。竹中が官僚に命令して、無理矢理書かせたのだろう。で、官僚は、悪魔に良心を売り渡してまで、馬鹿な上司の言うとおり、嘘八百を書いたのだろう。あるいは、保身のため、自分で自分を洗脳したのかもしれない。すまじきものは宮仕え。
( ※ 官僚は「自分は正しい」と言い張るはずだ。しかし、もし将来、首相が替わったら、官僚の主張もコロッと変わるだろう。将来の経済財政白書では、「前首相の構造改革路線が失敗したことの、理由と分析」というのを書くことになるだろう。そのときもまた、「自分は正しい」と言い張るはずだ。)


● ニュースと感想  (12月27日)

 円安が進行中。財務省は歓迎して、円安容認の発言をしている。
 「これで物価上昇が生じるので、景気回復」と思う人も多いようだ。しかし、私の考えでは、そうはならない。スタグフレーション気味になるはずだ。
 結局、景気回復をもたらす「需要増加」のためには、効果がない。メリットはほとんどないが、デメリットは十分ある。 (そもそも「円安」というのは、「自立回復」よりは、「経済悪化のスパイラル」の一環である。世の中、悪くなるばかり。)
 で、人々は、どういう行動を取るか? 給料は増えないのに、どんどん物価は上がるのだから、消費をなるべく切りつめるしかない。企業も同様で、総需要はさらに縮小するのに、コストが上昇するから、なるべく設備投資を減らして、賃金を下げて、首切りを増やす必要がある。
 というわけで、景気はどんどん悪化の一途。にもかからわず、物価は上昇傾向を取る。つまり、スタグフレーション気味となる。最悪ですね。
( → 12月15日 の後半。)


● ニュースと感想  (12月27日b)

 医療のカルテとレセプトを電子化する方針。(読売・夕刊 2001-12-26 )
 それより、保険証と処方箋を電子化してほしいんですけど。特に、処方箋。 ( → 第2章
 これは、オンラインでやらず、手動でやる(印刷してからキー入力する)と、さんざん待たされるし、エラーも生じる。似た名前の薬を間違えて処方して、病状悪化、というような例が、先日報道されていた。
 人間とはしょせん間違いをする存在である。(政府が毎日、実証しています。)


● ニュースと感想  (12月27日c)

 都市再開発を、という主張がある。(朝日・朝刊・経済面 2001-12-23 など。)
 これは、悪くない主張だ。新宿あたりで、最新の高層ビルのすぐそばで、古びた低層ビルが並んでいるのを見ると、そのアンバランスに情けなくなってくる。外国人が見ても興味深いらしく、日本の風景として写真に撮られるのは、こういう情景だ。「やたらと広告だらけの薄汚い町。その背景には高層ビルが林立」というやつ。下品ですねえ。(といっても、今の日本の象徴かも。)
 で、「都市開発のために、新型公共事業をしよう。それで金を使えば、景気対策にもなる」というのが、よくある発想だ。しかしこれは、何でもかまわず税金を使えばいい、という発想だ。まったく。国民の血税を何と思っていることやら。いくらでも使い放題の、ドラエモンふう「底なし財布」とでも思っているのだろうか。
 もっといい手がある。税金を渡すのでなく、逆に、税金を取り上げればいいのだ。つまり、課税すればいいのだ。具体的には……
 「再開発地域」を指定する。その地域内では、一律に「開発された」と見なして、一定の固定資産税を課する。低層ビルであっても、高層ビルと見なされ、莫大な固定資産税がかかる。だから、一部の勝手な地権者だけが「開発はイヤだ」とごねて妨害することができなくなる。渋々、土地を手放さざるを得ない。で、本人は、頭に来るが、手元には巨額の土地売却代金が残る。(これは相場以上の価格である。その小さな土地としての本来の価格ではなくて、広い開発地域の一部としての価格だから、現実の相場以上となる。)
 というわけで、別に、「弱い者いじめ」をするわけではないし、逆に、「弱い者助け」をしてあげるわけだ。ただ、それでも、「おれは大儲けなんかしたくない」と意地を張る頑固老人が多い。こういうのが、都市再開発を阻害している。自分の偏屈さにこだわるあまり、周囲のみんなに大迷惑をかける。いわば、交差点の中央で停止して、道路に大渋滞を引き起こすようなものだ。……で、こうした阻害要因を除くために、莫大な税金を注ぎ込む、というのが、従来の手法だ。阿呆と阿呆の戦いで、国民の莫大な税金が無駄になる。
 で、そういう無駄のために予算を使おう、というのが、前述の「新型公共事業を」という案だ。「どうだ、うまい案だろ、おれって頭がいいなあ」と自惚れているようだが、まさしく道化である。こういう道化が日本には多すぎる。あんまり笑わせないでよね。
( ※ で、何が言いたいか? 都市再開発自体はいいが、そのために税金を使う必要はない、ということ。金ではなく、頭を使うべきだ。)
( ※ ついでに言えば、都市のインフラ整備なんていうのも、たいてい効率が悪い。たとえば、道路建設なら、9割ぐらいは土地代に消えてしまう。まったく、効率が悪い。しかも、インフラを整備すればするほど、都市の人口が過密になるので、ますますインフラが不足してしまう。こういう本質的な矛盾があるのだ。……どうせなら、「都市再開発」よりは、「都市機能の分散」の方が、使う金を生かすことができる。投資効率を考えるといい。なお、私の好きなようにやらせてもらえるなら、霞ヶ関のビルに入っている組織を、粉々に分解してやりたいですね。別に、テロじゃないんですけど。)




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