［付録］　ニュースと感想 （61）

• 　景気が回復すると、民間で資金需要が増える。
• 　政府の財政赤字がたくさんあると、資金の逼迫が起こる。（クラウディング・アウト）
• 　クラウディング・アウトが起こると、金利の上昇が発生し、投資が不十分になり、経済成長が阻害される。消費の増大に見合う投資がなされず、経済がいびつになる。
• 　だから、クラウディング・アウトの発生を抑制する必要がある。では、どうするか？　
• 　投資の成長が阻害されることが問題なのだから、ここでは、「高金利による投資の抑制」は、好ましくない。（ＩＭＦ的処方の否定。マネタリズムの否定。）
• 　したがって、投資ではなくて、消費を抑制する必要がある。そのための処方は、「増税」である。
• 　つまり、「高金利」のかわりに「増税」を取ることで、「投資拡大・消費縮小」というふうにする。そのことで、投資と消費の比率を変更して、この比率を最適化する。（消費過剰を抑制する。）
• 　ただし、その時期は、「消費過剰」になった時期である。景気が十分に加熱したあとで増税するのだ。つまり、「景気がちょっと回復しかけたとたんに増税する」のではない。この両者の違いをはっきりと理解することが大切だ。（消費が少し回復しかけたからといって、直ちに増税すれば、消費拡大の芽を摘むことになるので、状況を破滅的に悪化させてしまう。）
• 　景気が十分に加熱したかどうかの指標が、「物価上昇率が５％」ということだ。

• 国債発行（財政赤字）による公共事業は、官需拡大を意味する。これは、次の効果がある。
  • 不況のときには、官需拡大の分、総需要拡大の効果が現れる。（需給ギャップが減るだけだ。）……ケインズ的。
  • 景気過熱のときには、クラウディング・アウトの効果が現れる。（供給能力の上限に達する。）……古典派的。
  • 中間的な景気のときには、金利の上昇を通じて、中間的な効果が現れる。（高い金利を払える優秀な企業だけが事業を拡大できる。）……中間的。
• 増税による公共事業は、消費減少・官需増大だから、消費と官需の比率を変更するだけだ。
• 増税による国債償還は、消費減少・投資拡大だから、消費と投資の比率を変更するだけだ。

• 　巨額の借金は、たしかに問題である。これを返済することは、必要である。
• 　しかし、そのために「増税」をすれば、生産量が縮退してしまう。そのせいで、かえって借金はふくらんでしまう。（橋本増税や、小泉の財政緊縮路線など。）
• 　だから、「増税」も「財政緊縮」も、狙いとは逆の効果が出る。そういう政策は、本末転倒なのだ。（「生きることが大切である。ゆえに自殺する」というような倒錯した論理である。）
• 　借金の返済には、「所得を奪うこと」である「増税」とは別の方法でなすべきだ。
• 　それは、何か？　「タダ働き」である。つまり、「所得を奪う」のではなく、「労働」を奪う。それは本質的には、「生産量を増やして、かつ、増税をする」というのと同等である。ここでは、「生産量を増やす」ということが必須であり、その範囲内でのみ、「増税」が許容される。「生産量を増やす」ということなしに、「増税」だけがあれば、「生産量が萎縮する」という結果を招いて、本末転倒である。
• 　では、「生産量の増加」のうち、どれだけの分を、「増税」に回すことができるか？　
• 　実は、その割合は、一定ではない。次のようにするべきだ。
  • 　初期は、「増税」なしにする。「生産量の増加」のすべてを所得に回して、そのことで「生産量の増加」をなるべく急激にすることを目的とする。
  • 　「生産量の増加」が十分になされるにつれて、「増税」も徐々になしてよい。
  • その境界は、「物価上昇率が５％」である。この水準に近づけば、「増税」をなしてもよい。それ以下の水準であれば、まだ「増税」をなすべきではない。それを大きく越えるようであれば、「大幅」に増税をするべきだ。
• 　「増税」には、「借金返済」の効果を通じて、「投資の拡大」と「消費の縮小」という効果がある。これが本質的だ。
• 　「増税」をなすべき時期とは、「投資の拡大」が必要な時期だ。換言すれば、金利が高すぎるので、金利を引き下げる必要がある時期だ。
• 　すると、金利の観点からも、「増税」をするべき時期が判明する。次のように。
  • 　景気が低迷している時期には、景気刺激のために、金利が低い。この状況では、増税の必要はないし、なすべきでもない。
  • 　景気が好転するにつれて、金利も上昇する。これに応じて、「増税」をしてもいい。ただしこれは、「減税を減らす」という意味の「増税」である。財政赤字が大幅に出ている状況でなければ、あえて「増税」をする必要はない。（たとえば、自然増収で財政均衡が達成されたら、あえて「増税」をする必要はない。）
  • 　景気が過熱すると、金利が上昇する。放置すると、投資不足と消費過剰で、悪性のインフレスパイラルになる可能性がある。そこで、「投資拡大・消費抑制」を狙って、増税をする必要がある。
• 　結局、「物価上昇」または「金利上昇」が起こったときに、「増税」をすればよいわけだ。その効果は、「借金返済」を通じて、「投資拡大・消費抑制」をすることだ。これが借金返済の本質である。決して「帳簿の赤字を解消すること」ではないし、「将来の破綻を回避するため」でもない。
  （ ※　「将来の破綻を回避すること」というのは、大切ではあるが、当面の問題とはならない。当面の問題は、「借金を増やさないこと」であって、「急激に返済を開始すること」ではない。）
• 　「増税」をするべき時期は、「物価上昇」または「金利上昇」が起こったときだが、「物価上昇」でも「金利上昇」でも、どちらにしても実質的には同じである。物価上昇があれば金利上昇もあるからだ。つまり、そういうふうに金融当局が政策を取るからだ。
  （ ※　物価上昇が起こっていても金利上昇がないとしたら、金融当局がサボっているだけのことだ。逆に、物価上昇がないのに金利上昇があるとしたら、金融当局が狂っているだけのことだ。いずれにせよ、そういう奇妙な状況は、無視してよい。）

• 　「増税」の範囲は、「生産量の増加」の範囲内で。（さもなくば逆効果。）
• 　「増税」の時期は、早めればいいのではなく、景気回復に応じてなす。
• 　特に、景気回復の初期においては、「増税」をしてはならない。（むしろ「生産量の増加」を優先する。）
• 　「増税」の効果は、「投資の拡大」と「消費の縮小」である。だから、「投資の拡大」が必要な時期（金利上昇が起こった時期）になってから、なすべきだ。それまでは、「増税」をなすべきではない。

• ５兆円の増税で、５兆円の損失を受けて、５兆円の借金返済をする。
• ５兆円の買いオペ（貨幣の増加）で、それによる物価上昇の損失を受けて、５兆円の借金返済をする。

1. 量的緩和をすれば、貨幣供給量が増える。
2. 貨幣供給量が増えれば、名目金利が下落する。
3. 貨幣供給量が増えれば、物価上昇が起こる（または起こると予想される）。ゆえに、実質金利が低下する。
4. 名目金利や実質金利が低下すれば、投資が有利になるので、投資が増える。
5. 名目金利や実質金利が低下すれば、消費も増える。
6. 貨幣供給量を安定させれば、景気は安定する。

• 財政赤字を出して、国債を民間引き受けにすれば、借金が生じる。
  （かわりに、「物価上昇」は起こらない。）
• 財政赤字を出して、国債を日銀引き受けにすれば、借金は生じない。
  （かわりに、「物価上昇」は起こる。）

• 財政赤字の削減のための「増税」をすれば、借金が減る。
  （かわりに、「物価上昇」は抑制される。）
• 財政赤字の削減のため「増税」をしなければ、借金が減らない。
  （かわりに、「物価上昇」は抑制されない。）

• 財政赤字を出して、政府支出（公共事業）に使えば、国民は損をする。
• 財政赤字を出して、国民への減税に使えば、国民は損をしない。

• 貨幣供給量を増やして、金利低下に使えば、投資が増える。
• 貨幣供給量を増やして、減税に使えば、消費が増える。

• デフレ のとき …… 供給過剰である状況で、消費よりも投資ばかりを増やそうとして、量的緩和を実施する。［これは、無効な経済政策。］
• インフレのとき …… 供給不足である状況で、投資を減らそうとして、高金利政策を実施する。［これはいっそう供給不足を招くので、逆効果の経済政策。］）

• デフレ のとき …… 供給過剰であるのだから、さらに供給を増やすための投資を増やす必要はない。量的緩和などは無用である。どちらかと言えば、低すぎる金利を上昇させた方がよい。つまり、正常な状況よりは金融緩和をしてもいいが、ゼロ金利などはやりすぎであり、１〜２％程度の金利を維持した方がよい。そして、かわりに、消費拡大のための大幅な減税を実施する。
• インフレのとき …… 供給不足である状況だから、投資を減らすよりは投資を増やすべきだ。抑制するべきは、投資ではなく消費である。金融は、引き締めるべきではなくて、緩和するべきである。そして、かわりに、消費縮小のための増税を実施する。（成功例はクリントン経済。）

• デフレ のとき …… 財政赤字（減税）によって、借金が増える。
• インフレのとき …… 財政黒字（増税）によって、借金が減る。（借金返済が進む）

• 買いオペ …… 借金が減る。　（ただし物価上昇が起こる［均衡ならば］）
• 売りオペ …… 借金が増える。（ただし物価上昇を抑制できる）

• デフレ のとき …… 借金が増える政策。つまり、「財政赤字」および「売りオペ」（金利上昇）
• インフレのとき …… 借金が減る政策。 つまり、「財政黒字」および「買いオペ」（金利低下）

• デフレ のとき …… 「売りオペ」（金利上昇）を行なう。投資を縮小させる。その一方で、タンク法によって消費の金を増やして、物価上昇をもたらす。逆に言えば、タンク法による物価上昇の弊害を抑制するために、投資の抑制をもたらす「売りオペ」（金利上昇）を行なう。
• インフレのとき …… 「買いオペ」（金利低下）を行なう。投資を拡大させる。その一方で、タンク法によって消費の金を減らして、物価下落をもたらす。逆に言えば、タンク法による物価下落の助力によって、投資の拡大をもたらす「買いオペ」（金利低下）を行なう。

（もともと ２月02日 以降、「マクロ経済学の回顧」のような話をしてきた。ただし、途中［ ２月09日 以降］で、「円安介入」の話をして、ミドル経済学の話の補充をしてきた。）
（本日以降は、ふたたび、マクロ経済学の回顧のような話。まずは、時事的な話。明後日以降は、貨幣数量説の話。）

• 　マネーサプライの伸びが、最近も低調である。（ →　２月13日 ）
• 　トヨタの季節工が増えていて、8000人を初めて越えたという。（２月08日語ごろの新聞情報による。）……しかし、工場をフル稼働させて、正社員を削除しても、たったの１千人か２千人ぐらいしか季節工は増えない。残業の増加を含めたとしても、トヨタの全社員における雇用増加の効果は、せいぜい、３〜４千人分の所得増加であるにすぎない。
  　一方、失業者は 350万人もいるし、大卒新卒者の非雇用率（失業率）は 25％だ。円安による輸出増加があったとしても、その効果は、スズメの涙にすぎない。自動車業界全体と電気業界全体を合わせても、たいしたことはない。そもそも、輸出産業がＧＤＰに占める率は１割しかない。 （ →　２月13日b ）
  
• 　昨年末の四半期について、「実質成長率が年率換算７％の増加」と浮かれているが、本当は、「名目成長率が年率換算 2.6％の増加」であるにすぎない。その差は、物価が下落しただけのことだ。（次項）
• 　昨年度の家計消費は、伸び率が、マイナス0.8％ であった。２年ぶりに前年値を下回る。ただし、11月と12月だけは、0.4％程度の微増。いずれも、名目値ではなくて、実質値。（読売・朝刊・３面・ベタ記事。2004-02-11 ）
  
• 　昨年 12月の現金給与総額は、前年同月比 1.5％の減少。（厚生労働省の調査。読売・夕刊・２面 2004-02-18 ）
  
• 　来春の賃上げについては、非常に厳しい見込み。電機労連はベアの要求自体をゼロにした。（朝日・朝刊・経済面 2004-02-19 ） となると、ベア・ゼロは確定したことになる。さらに、退職者の給与が少数の新卒者の給与に置き換わるから、給与総額は４月以降、減少することになる。
  

　［ 参考 ］
　以上の議論では、詳しい説明（理論的な説明）は省かれている。
　もっと詳しい説明をするには、「均衡／不均衡」の区別をしたあと、「供給拡大／需要縮小」の区別をして、モデル的に、「この場合には、価格がこうなり、生産台数がこうなる」というふうに場合分けをして考察するべきだ。
　ただ、そういう議論は、話自体は簡単だが、読むのが面倒くさい。だから、そういう議論は、私の手元のメモ用紙に書くだけにして、結論だけを、上記にまとめておいた。
　もっと細かい話を考察したければ、自分で場合分けをして、モデル的に考察してほしい。難しい考察は必要ない。単に、場合分けをして、数値的に考えるだけでいい。